重粒子線施設 広範な議論と説明尽くせ


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 放射線の一種である重粒子線をがんに集中的に照射して治療する施設の立地可能性を調査する県の協議会が、米軍キャンプ瑞慶覧の西普天間住宅地区(宜野湾市)を候補地とする中間報告をまとめた。

 国民の2人に1人はがんにかかると言われている時代だ。重粒子線治療に対する期待は高く、それだけに慎重かつ広範な議論が当然求められよう。
 エックス線など従来の放射線と異なる粒子線治療には、炭素の原子核を使う重粒子線と水素の原子核を使う陽子線がある。体内の深い部分にある病巣をピンポイントで破壊でき、正常な細胞への影響が少ないという利点がある。
 中間報告は県が施設を建設し、民間が運営する公設民営を想定。約150億円の建設費(期間4年)は沖縄振興一括交付金の活用を想定しているが、課題も少なくない。
 まず採算性だ。交付金対象外の維持費や人件費の捻出に年間500人の利用が必要だが、そのうち県内患者は100~150人程度とみている。重粒子線施設は国内で4カ所(陽子線施設は8カ所)が稼働中で、他にも複数計画がある。県は利用の不足分について県外・海外から治療目的の旅行者を誘致する考えだが、その実現性については丁寧な説明が必要だろう。
 治療や機器に関わる高度技術者育成も懸案だ。関係機関の連携が急務となろう。放射性廃棄物の処理も課題に挙げられている。放射性物質が残らない最新機器を検討するというが、関係者に不安を与えないような指針が当然必要だ。
 先進医療に認定される重粒子線治療は、健康保険が適用されないことから高額な治療費(314万円)は全額患者の自己負担となる。このため県がん患者連合会は、宮古、八重山への放射線治療機器整備から優先すべきだと訴えている。一方、重粒子線施設がある群馬県は患者の負担軽減のため国に保険適用を働き掛け、県民が治療費を借り入れた際の利子助成制度を設けている。参考にしたい。
 沖縄県医師会が行った県民アンケートでは86%ががんになった場合に重粒子線治療を受けたいとし、95%がもっと情報を知りたいと答えた。最先端医療への期待の高さがうかがえる。
 最大の鍵は費用対効果の課題をクリアし、県民合意を取り付けることだろう。県は本年度中に最終報告をまとめるが、県民に広く内容を説明する機会を設けるべきだ。