楽天日本一 東北を一つにした「底力」


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 胴上げされる星野仙一監督を見詰めながら、顔をくしゃくしゃにして歓喜の涙を流すファンの多さに胸を打たれた。「スポーツの力」の素晴らしさを印象付け、球史に残る感動的な場面だった。

 プロ野球の東北楽天が、3勝3敗で迎えた日本シリーズ第7戦で巨人を破り、初の日本一を勝ち取った。星野監督は球団創設からの年数と同じ9回、宙を舞った。
 下馬評を覆し、日本球界の盟主・巨人を臆することなく打ち破り、勇気と希望を与えた。心から祝福したい。
 球団名に「東北」を冠する楽天の日本一には、特別な意味がある。
 星野監督が就任した2011年、東日本大震災が起きた。遠征から地元に戻った選手は被害の大きさに強い衝撃を受けながら、被災地を巡り、住民を励ました。
 「東北の皆さん、絶対に乗り越えましょう、この時を。乗り越えた向こう側には強くなった自分と明るい未来が待っているはずです。見せましょう野球の底力を、東北の底力を」
 震災翌月の復興支援の慈善試合で、選手会長だった嶋基宏選手が訴えた言葉は、東北の人々を一つにし、目指すべき方向を示した。
 チームは使命感を強め、被災者との交流を継続した。被災地復興の苦難を共有し、ファンとの絆とチームの底力の双方が高まる相乗効果が今季の躍進につながった。
 楽天の活躍は、仮設住宅で観戦した被災者、東北の地から避難した地域で試合を見詰めた人々の希望の灯となり、折れそうになる心を元気付けたはずだ。
 シーズン24勝を挙げ、不敗神話をつくったエース田中将大投手で第6戦を落とし、逆王手をかけられた。だが、最後まであきらめない底力を付けた戦う集団はひるまなかった。今季の逆転勝ちが30試合を超えたチームは、最終戦でも見事に逆境をはねのけた。
 球団創設の年は38勝97敗。地方の弱小球団がはい上がる姿は、被災地だけでなく困難に直面する多くの国民をも勇気付けた。その歩みを東北のファンは復興の道のりに重ねたはずだ。
 県出身の伊志嶺忠捕手も貴重な控えとしてチームを支えた。キャンプ地久米島も沸き返り、楽天は県内のファンも増やしている。
 大震災から2年7カ月。今も約28万人が避難生活を送っている。楽天が示した底力が被災地復興の活力になることを願ってやまない。