障がい者虐待 被害者見逃さない体制整備を


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 障がい者虐待防止法が施行された昨年10月から今年3月末までの半年間に、県内で虐待を受けた障がい者が34人いることが分かった。

 いずれも市町村への通報・届け出があったもので、ほとんどが親や兄弟姉妹ら養護者の家族から虐待を受けていた。部外者の目の届かない自宅などの密室性の高い場所で発生していることから、判明している人数は氷山の一角と考えるのが自然だろう。被害実態の把握を強化する必要がある。
 障がい者虐待防止法は虐待が障がい者の尊厳を害するものだとして、虐待の禁止規定を設けているほか、虐待を受けたと思われる障がい者を発見した人には速やかな通報を義務付けている。
 虐待の種別をみると、重複回答で身体的19件、心理的虐待9件、放棄・放置8件と続く。経済的虐待も3件ある。経済的虐待とは年金の使い込みや賃金未払いなど不当に財産上の利益を奪うことを指す。
 厚生労働省が今年6月に発表した全国の職場での障がい者への虐待は194人に上り、うち最多だったのが最低賃金未満の支払いだったり、賃金を払わなかったりするなど経済的虐待の164人だった。家庭、職場で四六時中、虐待にさらされていないか、憂慮に堪えない。
 県内で判明した虐待の通報者71人のうち相談支援専門員・障害者福祉施設従事者ら20人が最も多く、本人と家族を除く部外者からの通報は41人と半数を超える。結果をみれば、虐待の発見は外からの目の多さが大切なのが分かる。
 今回の調査では県内の福祉施設や職場での虐待の事実は判明しなかった。しかし、知的障がい者と家族でつくる「県手をつなぐ育成会」の田中寛理事長が「事業所や施設に苦情を言いづらい。利用できなくなったら、他にお願いできるところがないから一人で抱え込む」と話しているように、被害が潜在している可能性も考慮する必要がある。
 県内では来年4月、障害者差別をなくす権利条例が施行される。虐待は障がい者への差別であり、基本的人権を踏みにじる悪質な行為だ。虐待は暴力であり、決して正当化できない。県と市町村は虐待防止に対応するための体制をさらに整備する必要がある。県民全体で虐待のない社会の実現を目指すべきだ。