秘密法と身辺調査 監視社会にはしたくない


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 防衛省が、防衛秘密を扱う自衛官に対し、思想・信条のほか友人関係や交際相手も調べ、携帯電話の通話記録提供まで求めていることが国会質疑で明らかになった。

 戦前の憲兵隊、特高警察とうり二つだ。現在の自衛隊法の下ですら、法の定めのないこのような調査をしているのだから、特定秘密保護法ができれば一層、徹底して身辺を洗うのは間違いない。しかも同法は民間人も処罰の対象だ。
 ジョージ・オーウェルの小説「1984年」もかくやと思わせる監視社会、警察国家だ。そんな国にはしたくない。
 国会で明らかになったのは防衛省の「身上明細書」だ。驚くべき内容が並ぶ。例えば職歴は「自己都合で退社」では不十分で、「給与の不満」などと具体的な理由まで求める。交友関係も「飲み友だち」「交際相手」などとし、その住所まで書かせる。プライバシー尊重のかけらもなく、宗教や思想も含め個人の内面に土足で踏み込む。人権侵害の極みだ。
 過去の防衛省を見ればこの事態もうなずける。同省はかつて情報公開法に基づいて公開請求をしただけの市民を身辺調査したことが暴露されたが、その後も懲りずに市民団体の動向を調査した。沖縄防衛局は市長選に際し職員に親族の有権者名簿を出させ、講話していた。恐るべき人権感覚である。
 問題は、特定秘密保護法案が公務員の「適性調査」を公然と法制化しようとしている点だ。防衛省だけが一足先に、法の定めなしに実行しているというにすぎない。
 親類や友人にまで調査の網をかけ、適性を審査する行為が許されるのか。例えば政府にとって好ましくない思想を持つ人物が親類にいるだけで、その職に就けないことになる。憲法が定める職業選択の自由などみじんもない。
 特定秘密保護法というと、対象となる秘密を「特定」しているような印象を受けがちだが、事実は異なる。法案は(1)防衛(2)外交(3)テロ-など4分類を例示するが、「その他重要な情報」という文言もあるから、対象は無限に広がる。あらゆる公務員が処罰対象になり得るのだ。
 役所と取引のある企業人も、公務員の友人知人も親類も、全てが対象となり得るから、この社会全体が監視社会となってしまう。そんな秘密警察国家を招く秘密保護法は、やはり廃案にすべきだ。