秘密法成立強行 許されぬ権力の暴走 解散し国民の審判仰げ


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 あまりの強権国家ぶりに言葉もない。これで日本は本当に民主国家と言えるのか。
 安倍政権と自公両党は特定秘密保護法案を参院本会議で強行採決し、成立させた。担当大臣の答弁は二転三転、前言撤回の繰り返しで、徹底審議とは到底言えない中での強行だ。野党の反対だけでなく、ノーベル賞学者を含む内外の広範な批判をも力で押し切った。権力の暴走と断じざるを得ない。

 確かに自民党は総選挙と参院選で大勝した。とはいえ、国論を二分する問題まで国民が全権委任したわけではない。首相は速やかに解散し、法の是非をめぐり総選挙で国民に審判を仰ぐべきだ。

主権の移動

 繰り返し指摘してきたが、この法の最大の問題は、民主主義と国民主権を根底から覆す点にある。
 この法ができたことで、重要な情報は官僚と政権与党の一部が独占することになる。しかも秘密指定は無制限に繰り返せる上、秘密のまま廃棄もできるから、永久に闇に葬られるのだ。
 現に政府は防衛秘密を大量に廃棄してきた。原発事故で放射性物質の拡散情報を伏せたのも記憶に新しい。外務省も、例えば在外公館のワインリストすら秘密にしてきた。法案審議で政府は恣意(しい)的運用はしないと強調したが、これまでも主権者国民の目をふさいできた官僚たちがこれからは突然、知る権利を大事にするというのか。
 秘密法が想定する秘密は、当然ながら首相らが何らかの意思決定をする際の参考にするものだろう。国政をめぐる重要な決定は、根拠を含めて国民に知らされなければ国民主権は機能しない。永久に闇のままでは、主権が国民から官僚に移動するに等しい。
 安倍晋三首相は「重層的チェック機能」を強調した。だが保全監視委員会も保全監察室も政府内に置く組織だ。役人がお仲間の役人の指定を批判的に検証するはずがない。突然浮上した組織はその役割分担すら不明で、まさに泥縄式だ。
 識者の情報保全諮問会議も、個別の秘密指定の是非を点検するわけではない。「重層」のどこにも実効性はないのだ。
 法制定で、不正を告発しようとする公務員が萎縮するのは間違いない。一般市民も処罰の対象だから、政府の不正を調べる人は命懸けだ。それどころか「何が秘密かも秘密」だから、知らぬ間に情報に接した市民が突然、処罰されることもあり得る。特高警察が暗躍し、憲兵がのさばった戦前の暗黒社会の再来となろう。

似て非なる仕組み

 政府は諸外国の仕組みを参考に制度を整えたというが、他国の例とは似て非なるものだ。日本は秘密がいわば「常態」だが、欧米では、あくまで異例中の異例だという発想に貫かれている。
 例えば米国は25年たてば自動的に機密解除となる。再指定もできるが、ごく一部を除けばそれが限界だ。日本のように無期限に指定を繰り返せるという発想はない。
 監視機関も、米国では各省から完全に独立した第三者機関・国立公文書館情報保全監察局が担う。しかも全ての情報へのアクセスが認められている。日本の仕組みがいかに前近代的かを物語る。
 国会審議中、これらの欠陥は繰り返し指摘されてきた。だが欠陥の本質は何ら変わっていない。
 一部野党が巨大与党にすり寄り、安易に修正協議を競ったことが、悪法成立の事態を招いた。しかも国会外での密室協議だ。民主主義の重大な危機、憲政史上の汚点と言わざるを得ない。その意味で、みんなの党、日本維新の会も自らの責任は重大と知るべきだ。
 今後は米軍の環境汚染も日米間の密約も秘密指定されかねない。県民は蚊帳の外だ。犠牲者は永久に犠牲になれと言わんばかりだ。
 真に法が必要なら、国民の理解は不可欠なはずだ。総選挙の争点とすることで、国民の認識も深まろう。首相はやはり一刻も早く解散し、信を問うべきだ。