エネ基本計画素案 「脱原発」を捨て去るな


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 国の中期的なエネルギー政策の指針となるエネルギー基本計画について、経済産業省は「原発ゼロ目標」を否定し、再稼働を含め原発活用を明記した素案をまとめた。年内にも計画を策定し、来年1月にも閣議決定する方向という。

 東京電力福島第1原発事故を教訓に、民主党政権で脱原発に切った舵(かじ)を再び原発依存に戻す重大な方向転換だ。
 しかし、素案は放射性廃棄物の最終処分場問題などの見通しが甘く、国民世論からも懸け離れていると言わざるを得ない。福島原発事故の教訓を生かすのなら、脱原発、原発ゼロ社会の目標をここで捨て去るべきではない。
 素案は原発を「優れた安定供給性効率性を有し、運転コストが低廉で、運転時に温室効果ガスの排出もない」と評価した。
 福島原発事故がなかったかのような、驚くべき現状認識だ。原発事故はいまだ収束せず、廃炉までの道のりも多難だ。効率性を否定はしないが、原発はいったん事故が起こった場合のリスクはその何倍返しにもなる。それが福島原発事故から得た教訓だろう。
 小泉純一郎元首相が「原発ゼロ」を打ち出して注目されているが、その論拠となったのが「核のごみ」の問題だ。政府は高レベル放射性廃棄物の最終処分場について、公募方式から政府が候補地を選定して建設する方策に転換した。
 しかし、選ばれた自治体がすんなり受け入れる保証はない。最終処分では地層処分が有力だが、欧州の古くて頑強な地層に比べ日本のそれは頑強さに欠け、地層処分に適さないとの指摘もある。
 地層処分は、ガラスで固定化した放射性廃棄物をステンレス容器に入れて地中深く埋めるが、容器の腐食や地下水の影響による汚染の懸念も払拭(ふっしょく)できないという。
 一方で、既に国内に存在している放射性廃棄物は処分しなければならないという厳しい現実がある。その上にさらに原発を再稼働し、新たな「核のごみ」を生み出すことは愚かで無謀と言うしかない。
 素案は将来の原発新設に含みを残し、事実上破綻状態にあると指摘される核燃料サイクル政策も推進する考えを示しており、あまりに原発に頼りすぎている。
 エネルギー問題は国民生活に直結し、地球温暖化なども絡んで難題だが、原発事故の教訓を生かした政策でなければ禍根を残す。