秘密法と世論 民主主義壊す悪法は廃止を


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 特定秘密保護法の強行成立から一夜明けた安倍晋三首相は「嵐が過ぎ去った感じだ」と語ったという。首相はあくまで世論の反対に耳を傾けるつもりはないようだ。

 知る権利を侵害し、憲法を骨抜きにしかねない悪法に対する国民の怒りは収まっていない。週末は各地で反対集会があり、成立後も廃止を求めて市民が声を上げた。
 自民、公明両党による採決の強行は、焦りの裏返しでもある。審議が進むにつれて反対の声は日に日に高まり、各界各層から立場を超えて強い懸念が発せられていたからだ。
 ノーベル賞受賞の益川敏英、白川英樹両氏らが名を連ねる学者グループは「学問と良識の名において秘密国家・軍事国家への道を開く法案に反対」と訴えた。益川氏は「社会の進歩の妨げ」と科学者の立場から警鐘を鳴らしていた。
 映画界では高畑勲、山田洋次両監督らの呼び掛けに俳優の吉永小百合さんら260人余が賛同した。かつて戦争に対する翼賛を強いられた先達の映画人たちの強い反省と悔悟が継承されている。
 日本ペンクラブの浅田次郎会長は「最も許し難い法案。文化の崩壊だ」と怒った。歴史学者らは「真実の探求が妨げられ、歴史的史料が闇の中に葬られる」と指摘した。医療現場は「患者情報が特定秘密にされかねず、医療の萎縮につながる」と懸念の声を上げた。
 国連のピレイ人権高等弁務官は「政府が不都合な情報を秘密扱いする可能性がある」と懸念。安全保障と情報公開に関する国際原則「ツワネ原則」を定めた米国の財団は「21世紀に民主的な政府が検討した中で最悪レベル」と評したが、首相は一顧だにしなかった。国際社会の批判も無視したその姿勢は、後世にも厳しく問われよう。
 成立を受け、自民党は特定秘密の内容を監視する常設委員会を衆参両院に設置する方向で検討に入った。だがこれまでも政府によるあまたの情報隠しを見抜けなかった国会に監視機能が果たせるのか。そもそも成立直後にこうした議論をすること自体、同法に重大な欠陥があることの証左であり、国民を愚弄(ぐろう)している。
 秘密保護法を廃止すべきだ。弥縫(びほう)策を講じたくらいで、国民主権と衝突する悪法の本質は変わらない。この法律は選挙で信任を得たわけでもない。安倍政権は民意と向き合うべきだ。悪法でこの国の民主主義を破滅させてはならない。