秘密監視機関 国の暴走の歯止めにならぬ


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 機密漏えいに厳罰を科す特定秘密保護法の成立を受け、政府は特定秘密の内容をチェックする機関の設置を表明している。しかし政府が秘密指定の妥当性を監視する仕組みとして、複数の機関やポストの新設を次々と打ち出したのは、5日の採決直前だった。国民の知る権利や表現の自由を侵害する法律を通す作業は、あまりにずさんで稚拙だった。

 法案審議で争点となったのは政府による秘密指定を「政府の外」から監視する仕組みを設けることだったはずだ。行政による恣意(しい)的な秘密指定を防ぐ必要性から、野党の一部が独立した公正な立場の監察機関の設置を求めていたのもこのためだ。しかし政府が表明したのは内閣官房への「保全監視委員会」、内閣府への「情報保全監察室」と「独立公文書管理監」の設置だ。全て行政内部、身内だ。
 保全監視委員会は警察庁長官や外務、防衛両省の事務次官らで構成され、情報保全監察室は外務、防衛両省の職員ら20人規模の組織だ。秘密指定の適否を検証するものだ。独立公文書管理監は審議官級を充て、公文書の廃棄の可否を判断する。官僚組織による秘密指定を身内の官僚が精査するのだから、茶番劇というほかない。
 こんな組織やポストがいくら設置されても「官僚による官僚のための情報隠し」(民主党の海江田万里代表)に歯止めがかからないのは明白だ。政府は3組織とは別に、報道や専門家ら有識者による「情報保全諮問会議」も設置する方針を示すが、この組織は具体的な特定秘密はチェックできない。これではお飾り、絵に描いた餅だ。
 国会も蚊帳の外に置かれる。国会の秘密会から求めがあれば、行政機関の長は特定秘密の提出が義務づけられている。しかし「安全保障に支障を及ぼす」と一言いえば、出さなくていい。漏えい事件の裁判でも裁判官に特定秘密を見せなくてもいい。政府の暴走を止める手段はない。あまりにも危険な法律だ。
 国連のピレイ人権高等弁務官は同法について「日本の憲法や国際人権法が定める情報へのアクセス権や表現の自由に対する適切な保護規定を設けずに、法整備を急ぐべきではない」と述べ、政府と立法府に対し、国内外の懸念に耳を傾けるよう促した。安倍政権はボタンの掛け違いを認め、この法律をいったん廃止し、立法の是非を国民に問い直すべきだ。