漁業支援基金 日台の操業ルール策定急げ


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 尖閣を含む先島諸島周辺の漁業権をめぐって日本と台湾が4月に調印した取り決め(協定)で影響を受けている県内漁業者を支援するため、水産庁が100億円の基金を創設する方針を固めた。

 県内漁業関係者からは一定の評価がある一方、内容を見極めたいとの声も多い。沖縄の頭越しに締結された協定による漁業者の被害を補償するのは、当然のことだろう。日本政府は遅れている合意水域での操業ルールの策定に全力を挙げるべきだ。
 基金を活用した事業は5年を計画。台湾漁船とのトラブルで漁具の被害を受けたり、台湾漁船の操業状況を調査したりした場合に一定の金額を支払う。台湾側との交渉のための渡航費や、協定の影響で出漁を控えている漁業者を対象に調査協力費などの日当を手当てすることも検討している。
 100億円の根拠は不明だが、被害の実態に即した活用が焦点となろう。水産庁は使途について地元と協議するようだが、操業を自粛する漁業者に対する十分な救済を求める声がある。漁業者の声に真摯(しんし)に耳を傾けてもらいたい。
 日台の漁業関係者は今月5、6日に合意水域内の操業ルール策定について協議した。トラブルが起こった際の連絡先などでは大筋合意したが、焦点だった漁船間の距離、網の使用法など具体的な漁法では合意に至らなかった。
 5月に発効した協定は、日本の排他的経済水域(EEZ)での台湾漁船の操業を認め、新たな境界線の設定でも台湾側に大きく譲った内容だった。尖閣問題で中国と台湾の連携を分断する政治的な思惑から、日本政府は台湾に最大限配慮したが、そのツケを沖縄の漁業者が払わされている。
 近年、漁船数で沖縄をはるかに上回る台湾側によるはえ縄の切断や盗難などの被害が多発していたが、協定で県内漁船はさらに出漁を制限せざるを得なくなり、クロマグロなどの好漁場を台湾に「実効支配」されることへの懸念も強まっている。
 本来なら協定を撤回するか見直すべきだが、まず現実的な問題として、一刻も早く台湾側との操業ルールを定めるべきだろう。漁業者にとって最大の被害は出漁ができないことにほかならない。協定発効から7カ月が過ぎてもルールが定まらない事態はあまりに無責任だ。日本政府は早急なルール策定へ全力で調整に当たるべきだ。