「共謀罪」新設 国民監視する悪法要らない


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 安倍政権は、話し合いをしただけで処罰される「共謀罪」新設を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案の検討に入った。

 犯罪が行われて初めて処罰するという日本の刑事法体系の原則から逸脱し、市民の会話やメールまで捜査対象となる恐れがある。戦前の治安維持法、あるいは米国統治下の沖縄のような監視・密告社会になりかねない。そのような悪法は必要ない。
 共謀罪は具体的に犯罪が行われるはるか前の、未遂や予備段階よりさらに前に、2人以上が話し合い合意することを処罰の対象にする。思想でなく行為を処罰するという刑事法体系の基本原則に矛盾し、憲法19条(思想・良心の自由)に抵触する。
 共謀を証明するために、おとり捜査や、市民の日常会話や通話、メールの内容まで捜査対象になりかねない。法学者は盗聴を容易にするため通信傍受法の改正も視野に入れているとみる。
 改正案は過去に3回廃案になっている。4年以上の懲役・禁錮を定めた600以上の罪が対象になり、捜査当局の恣意(しい)的な適用や拡大解釈が懸念されたからだ。廃案後も政府内では改正の動きが常にくすぶっていたようだ。今回は対象をテロや薬物・銃器取引、密入国などに限る方向で調整するようだが、懸念は拭えない。
 石破茂自民党幹事長が特定秘密保護法案への反対運動をテロになぞらえたように、共謀罪によって、市民団体が危険な組織と見なされ監視される可能性がある。
 戦時下の言論弾圧事件として知られる横浜事件は、当局が目を付けた人物が友人を招いて開いた宴会を共産党再建を共謀したとみなし、治安維持法によって逮捕、4人が獄中死した。米国統治下の沖縄は米軍情報機関(CIC)が住民を監視し、住民の中の密告者から情報を収集した。目を付けられ逮捕、拷問された住民もいる。
 強行成立させた特定秘密保護法、共謀罪、通信傍受法の三つがそろうと、主権者である国民が徹底して監視される「警察国家」が出来上がるのではないかと危惧する。
 安倍晋三首相が、国民監視体制を強化する一方、国会で自民党「1強」という数の力に頼って「戦争のできる国」づくりを進め続けることは許されない。まず解散して国民に信を問わねばならない。それが民主主義のルールだ。