国家安保戦略 戦争する国への岐路 事実上の改憲に歯止めを


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 不戦を誓い平和国家として歩んできた日本が、軍備を軸に国威発揚を優先した戦争ができる国に転換しかねない。歴史的分岐点となることは間違いない。

 政府は、外交と安全保障政策の指針となる「国家安全保障戦略」を初めて定めた。
 安倍晋三首相の強いこだわりで策定された安保戦略は、国是である武器輸出三原則を緩和し、輸出に道を開いた。明確な自衛隊増強にかじを切り、減り続けていた国防費も増額に転じた。
 「集団的自衛権の行使容認」を前提にしながら、軍備増強に傾斜する国の姿が鮮明になり、事実上の憲法改悪が進行している。

■好戦的な国家へ

 今後10年間程度の国防の指針となる「防衛計画の大綱」、5年間の予算の枠組みを定める中期防衛力整備計画(中期防)も同時に決定したが、政府は安保戦略を上位に位置付ける。政治主導色を濃くした安保政策の大転換である。
 安保戦略の基本理念には、自衛隊の海外展開を図る目的が明白な「積極的平和主義」がある。米国との協調の名の下、地球の裏側までも自衛隊を派遣して軍事行動を共にすることをにらみ、安倍政権は「集団的自衛権」の行使容認に向けた動きを来春以降に強める段取りを描いている。
 新防衛大綱からは「節度ある防衛力を整備する」の表現が消えた。中国との尖閣諸島の領有権問題を念頭に、離島奪還作戦を担う「水陸機動団」を創設するとしている。沖縄に新たな負担を強いる自衛隊増強に結び付きかねない。
 さらに、攻撃される前に他国を攻撃する「敵基地攻撃能力」に関し、「弾道ミサイルの対処能力の向上」の中で保有の検討を盛り込んでいる。
 安保戦略は、軍事力を増強する中国の防空識別圏設定などを挙げ、「力による現状変更の試み」と警戒感をあらわにした。領海侵入など突出した中国の行動に自制を促すことは必要であっても、露骨に中国を名指しした軍備強化路線は、日本側も「力による現状変更」を志向していると受け止められても仕方あるまい。新たな緊張の火種になりかねない。
 国家安全保障の目標は、(1)直接脅威を防止し、万が一脅威が及ぶ場合には、これを排除する(2)日米同盟の強化や脅威の発生の予防、削減-をまず挙げている。対話によって解決を図る「不断の外交努力」が登場するのはこの後だ。
 「力には力で」という好戦的な国防観が覆い、外交努力は二の次になっている。東アジアの軍拡競争を激化し、沖縄の基地負担が温存される不安がかき立てられる。

■「愛国心」に違和感

 パートナーの米国は中国の台頭を踏まえ、経済を軸に戦略の重点をアジアにシフトしている。対米重視一辺倒の日本と異なり、米国は尖閣諸島を日米安保の適用範囲内としつつ、日中の領土紛争への「不介入」を色濃くしている。
 日中の偶発的な衝突を防ぐ枠組みづくりを優先させた「政治的な危機管理」を志向する米国の思惑とも、今回の安保戦略は相いれないのではないか。
 強い違和感を抱くのは、戦略に「わが国と郷土を愛する心を養う」と明記し、「愛国心」を記したことだ。 安全保障を支える社会的基盤の強化が必要という文脈だが、「戦争ができる国」の基盤とも読める。国民の思想信条の自由に踏み込んで愛国心を強制することがあってはならない。
 国の将来を左右する重大な決定だが、国会での議論は尽くされず、与党内からも異論が出ない。「国を守る」という主張が先走り、歯止めをかけられない状況は、戦前の状況に近づいている。
 戦後の日本は武力を土台にした国威よりも不戦、平和を最優先の価値とし、68年間戦争をしていないからこそ、「国際社会の名誉ある地位」を得てきた。平和国家をかなぐり捨てるなら、名誉ある地位は到底得られないだろう。