猪瀬知事辞職 疑惑を徹底解明すべきだ


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 東京都の猪瀬直樹知事が辞職を正式表明した。医療法人「徳洲会」グループから受け取った現金5千万円についての疑惑は解明されず、都民の信頼を失墜させ、深刻な政治不信を招いた責任は重い。東京地検による厳正な捜査で真相を明らかにするよう求めたい。

 猪瀬氏は徳田毅衆院議員から現金を受け取ったことを認めている。徳洲会は都内で病院や福祉施設を運営、23区内に新たに病院をつくる目標を持っていた。病院の開設などは都が許認可権を持つ。当時副知事だった猪瀬氏が利害関係者から巨額の資金提供を受けたこと自体、辞職に値する。辞職表明は遅すぎた。11月に現金受け取りが発覚した時に辞めるべきだった。
 5千万円について二つの疑惑が浮上している。猪瀬氏が昨年11月、徳洲会の徳田虎雄前理事長と面会した際、売却が決まっていた東京電力病院を取得する意向を伝えられていた。猪瀬氏は今月6日、都議会一般質問で「東電病院の売却は話題になっていない」と答弁したが、虚偽だった疑いがある。
 都は東電の株主であり、昨年6月に開かれた株主総会では当時副知事だった猪瀬氏が「病院の稼働率が低い」などと指摘、東電病院の売却を迫っていた。その見返りであれば5千万円は贈収賄になりかねない。
 昨年11月、徳田前理事長、次男の徳田毅衆院議員に会ったとき、「選挙というものをやったことがなく、自分の先の生活に不安がある」と猪瀬氏が訴えた。徳田議員は「もしお金がないならいつでも貸しますよ」と応じたという。そして知事選出馬表明の前日に現金を受け取っている。
 一連の流れからすると選挙資金と疑われても仕方ない。選挙資金なら選挙運動費用収支報告書の虚偽記載に当たり、公選法に抵触する可能性がある。自ら示した「借用書」は無利息、無担保、返済期限もない簡単なもので証拠にはほど遠い。
 都議会の集中審議で猪瀬氏は「個人の借金」と繰り返したが、食い違いや訂正が相次ぎ、裏金疑惑は払拭(ふっしょく)されなかった。
 謝罪して済む話ではない。辞めて「一人の作家」に戻ったら問題が解決するわけでもない。疑惑の解明が都議会から捜査当局の手に委ねられるにすぎない。東京地検は裏金疑惑の全容解明と併せ徳洲会の闇の部分に切り込んでほしい。