原発事故復興指針 復興の具体的な将来像示せ


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 政府は20日、東京電力福島第1原発事故の復興指針を決定した。避難者の全員帰還の原則から帰還と移住の両面支援に転換する一方、東電負担を前提としていた除染などの一部に国費を投入する。

 東電主体の事故対応が遅々として進まないため、国主導の福島再生へとかじを切った格好だ。原発事故から約2年9カ月たつが、いまだ避難を強いられる約14万人の被災者からすれば、「国の対応は遅すぎる」というのが偽らざる心境だろう。
 電力会社と二人三脚で原子力政策を推進した国の責任は免れないが、国費投入には東電救済との批判も根強い。汚染水対策や除染、廃炉作業など課題は山積するが、東電存続ありきで、国民負担が雪だるま式に拡大することは到底許されないと政府は銘記すべきだ。
 復興指針は、避難住民の置かれた環境がさまざまなことから、全員帰還を断念。避難先で新たに住宅を取得する住民への賠償額を追加した。しかしながら、帰還か移住かの決断を迫られる被災者の苦悩と不安は察するに余りある。政府は避難住民一人一人の思いに寄り添い、実情に応じたきめ細かな支援策を講じてもらいたい。
 従来政策からの転換となる全員帰還の断念は、地域コミュニティーの維持や存続が難しくなるとの懸念も指摘される。長期にわたり放射線量の低下が見込めず、帰還が困難な地域からすれば、先の見えない現状は「置き去りにされる」との不安が募るだけだろう。全町民が避難する浪江町の馬場有町長は「町の分断につながる」と危惧するが、政府はこうした自治体の声を真摯(しんし)に受け止め、具体的な復興の将来像を早急に示すべきだ。
 東電に対する支援枠組みの拡大では、賠償と除染に十分な資金を確保するため、交付国債の無利子融資枠を5兆円から9兆円に拡大。中間貯蔵施設の建設・運営費約1兆1千億円に国費を投入して東電の負担を実質肩代わりすることも決まった。
 国費投入では、東電の負担を減らしたい経済産業省と、税金投入を避けたい財務省などが対立し調整は難航。結果的に「救済色」を薄めるため、除染費用は、原子力損害賠償支援機構が保有する東電株を売却して回収する仕組みとなった。ただ、株価が大幅に上昇することが前提であり新たな国民負担が生じる疑念は拭えない。安倍政権の覚悟と責任が問われよう。