検定基準改定 国家至上主義の教育やめよ


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 文部科学省の教科書検定審議会が検定改革案を了承した。近現代史を扱う際に通説的な見解がない歴史的事実の記述はバランスを取り、政府見解や確定判決があれば盛り込むとしている。さらに教育基本法の目標に照らして重大な欠陥があれば不合格にするとしている。時の政権が露骨に検定に介入する契機にならないか危惧する。

 改革案は自民党教育再生実行本部の教科書検定の在り方特別部会の中間まとめに沿っている。中間まとめでは現行教科書について「自虐史観に立つなど問題となる記述が存在する」との見解を示している。まとめには盛り込まなかったが、アジア諸国への配慮を求めた検定基準の「近隣諸国条項」の見直しも議論されている。
 自民党も参院選の公約に条項見直しを明記した。アジア諸国に配慮した記述のある教科書を「自虐史観」と決め付けて検定で閉め出す動きが今後強まる可能性がある。
 今回の改革案で「我が国と郷土を愛する」との愛国心を養うことが記された改正教育基本法との関連で「重大な欠陥があれば不合格にする」と明示したのも問題含みだ。安倍晋三首相の「(教科書に)改正教基法の精神が生かされていないと思う」との国会答弁に沿った形だが、愛国心教育の強制は国民の反発を招くことにならないか。
 愛国心教育は戦前教育への反省や内心の自由にかかわる問題だとして懸念を示す教育関係者が多い。教科書検定の権限を使って、国家至上主義的な教育へと一定の方向に導くような手法は大いに疑問だ。
 審議会では委員の1人が異議を唱えた。上山和雄国学院大教授は「賛成できない。検定基準は基本的に変えるべきではなく、政権交代によって変えるのは異常だ」と批判した。正論ではないか。しかし審議会はこの意見に耳を傾けることなく、他に反対意見がないたとして会長が了承を宣言した。政府の意向をくんだ結論ありきの改革案決定はあまりに強引だ。
 沖縄戦の住民の「集団自決」(強制集団死)が軍の強制・誘導などに起因することは沖縄戦研究の定説で、最高裁判決も認めた。沖縄戦に関する記述が削除されたり、不合格にされたりする事態は断じてあってはならない。繰り返すが、時の政権の価値観で検定基準を変えるべきではない。検定審は改革案を撤回し、議論をやり直すべきだ。