賃上げ動向 アベノミクスの正念場


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 安倍政権が進める経済政策「アベノミクス」の成否が今年は問われる。政権が描く景気の好循環を生むには、賃金の引き上げを伴う雇用の改善が不可欠だ。しかし、その見通しは明るくない。 

 共同通信社が主要104社を対象に実施したアンケートでは、2014年度の従業員の賃金を前年度比で「上げる」と回答した企業は18社で、17%にとどまった。
 賃金全体を底上げするベースアップ(ベア)を明言した企業はゼロで、企業側の慎重姿勢が鮮明だ。景気の現状判断では101社が「拡大」基調にあると回答しており、アベノミクスの成果も見て取れる。しかし今後の景気見通しでは、現状判断より慎重になる傾向が出ている。
 最大の要因は4月からの消費税増税だ。駆け込み需要も手伝い、景気は一見上向いているが、企業側には増税後の腰折れ懸念がかなり強い。多くの企業が収益を賃上げや設備投資に向けることに二の足を踏み、内部留保を充実させる方に軸足を置いている印象だ。
 金融緩和、財政出動に続く「第三の矢」である成長戦略に失速感が見られることも大きい。
 金融緩和や財政出動は株価の上昇、円安の進行をもたらし、企業業績を上げた。政府はその上で成長戦略を軌道に乗せることで賃上げや消費を喚起し、景気の好循環を生む構図を描いたが、市場は成長戦略に物足りなさ、迫力不足を感じているのが実情だ。
 環太平洋連携協定(TPP)の行方も不透明感の一因だろう。締結されれば、国内の産業構造に及ぼす影響は計り知れない。
 安倍政権の政治姿勢も影を落とす。首相自身の靖国神社参拝に象徴されるように、隣国との関係を悪化させる政権運営は企業活動にも決してプラスにはならない。
 消費税増税同様、アクセルとブレーキを同時に踏むようなちぐはぐさがここでも見られる。
 賃上げが全てではないが、それなくしてはアベノミクスは破綻する。しかし賃上げが実現しても、それが消費拡大につながるのかも不透明だ。消費増税と一体だったはずの社会保障制度改革は中途半端で、将来が不安だらけでは所得増加分は貯蓄に回る可能性もあるからだ。
 アベノミクスはまさに正念場を迎える。安倍首相はその成否が政権の存亡にも関わることを肝に銘じ、取り組む必要がある。