名護市長選告示 未来見据え1票を 辺野古移設の命脈に審判


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 米軍普天間飛行場の代わりとなる新基地を、名護市辺野古に建設することの是非が最大の争点となる名護市長選が12日告示される。

 名護市、沖縄の未来を左右し、日本の民主主義の成熟度を問う重大な選挙となることは必至だ。
 仲井真弘多知事が県外移設公約を覆し、政府の辺野古埋め立て申請を承認したのを受け、沖縄の直近の民意が国内外に発信される。
 辺野古移設に強く反対し、再選を目指す現職の稲嶺進氏(68)=社民、社大、共産、社大、生活推薦=と、移設を推進する前県議の末松文信氏(65)=自民推薦=の一騎討ちとなることが確実だ。

対立点が鮮明に

 1996年に日米両政府が普天間飛行場の県内移設条件付き返還に合意して以来、辺野古移設が争点となる名護市長選は5度目を数える。公有水面埋立法に基づく手続きが、知事の承認で形式的に完了した中で迎えるのは初めてだ。
 現職の稲嶺氏は、名護市が管理する港湾や河川の使用許可など、市長の権限で埋め立て工事の進展を阻む構えを示している。
 安倍政権が作業を加速させようとする中、今回の市長選は、辺野古と大浦湾の豊かな海を埋め立てて恒久基地を造る計画の命脈を決するかもしれない「天下分け目の最終決戦」と位置付けられよう。
 辺野古移設に強く反対する公明党県本部は自主投票とし、移設容認派の候補者を推してきた自民、公明の枠組みが崩れた。公明の支持層の動向も焦点となるだろう。
 今回は過去の市長選に比べ、より一層、辺野古移設をめぐる対立点が鮮明になっている。仲井真知事による埋め立て承認を受け、移設容認だった末松氏が、国、県と連携して積極的な移設推進を旗幟(きし)鮮明に打ち出したからだ。移設をめぐる争点は両陣営の総決起大会でもくっきりと浮かび上がった。
 稲嶺氏は仲井真知事の承認を公約違反と指摘し、「『沖縄は結局金か』という誤ったメッセージを発した」と批判した。その上で「海にも陸にも新たな基地は造らせない。信念を貫く。後世の子たちに負の遺産を残すのか、きっぱりノーの答えを出すのか。決めるのは市民だ」と訴え、移設阻止の決意を強調した。
 一方、末松氏は、知事の承認について「重い決断だ。問題に終止符を打ちたい」と高く評価した。その上で、「(移設)反対とさえ言わなければ、42億円の米軍再編交付金が下りた」と主張し、「移設の実現なくして、何ができるのか」と明言し、移設の見返りとして得る米軍再編交付金を街づくりに生かす姿勢を前面に掲げた。

安保維持施策の是非

 再編交付金をめぐり、稲嶺氏は「一過性の金は街づくりに結び付かない。市の予算、建設事業費は逆に増えている」と反論する。基地受け入れの代償として国の予算を獲得する「補償型の安保維持施策」の是非が再び問われている。
 立ち止まって考えたい。地域の振興を望むのは日本中、どの自治体でも当然だ。なぜ、沖縄だけが、基地受け入れと振興をてんびんにかけて酷な選択を迫られるのか。本土の国民は名護の不条理をどう認識しているかと問いたい。
 欧米の著名な知識人・文化人29人が知事の承認を批判し、辺野古移設中止を求める声明を発表した。移設問題は国際的な人権・環境問題として関心を集めている。
 仲井真知事に対し、県議会は辞任要求決議を可決したばかりだ。市長選の結果は、名護入りを重ねて末松氏を全面支援している仲井真知事に対する信任投票の意味合いも帯びてくるだろう。
 稲嶺、末松の両氏は、産業振興、教育・子育て、医療・福祉、街づくりの方向性など、市民生活に近く、関心が高い他の争点でも分かりやすく政策を主張し、判断材料を示してもらいたい。
 4万6665人の有権者は、名護と沖縄のこれまでと子どもたちの未来を見据え、1票を投じてほしい。