生物兵器実験 真相を徹底究明せよ


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 住民生活を脅かす軍事支配の一端がまた明らかになった。日本復帰前の1960年代初頭の沖縄で、米軍が稲作に深刻な打撃を与える生物兵器の研究開発のため、屋外実験を繰り返していたことだ。

 共同通信が入手した米陸軍の報告書(65年作成)によって、稲に大きな被害をもたらす「いもち病菌」を水田に散布し、データを集めていたことが分かった。
 報告書は実験場所の一つとして沖縄を明示し、61~62年に少なくとも12回の実験が記載されている。「ナゴ」「シュリ」「イシカワ」の地名が見られる。
 一般の水田への影響を防ぐ対策が講じられたかどうかは、分かっていない。米国の安全保障政策に詳しい我部政明琉大教授は「首里には基地がなく、実験は基地外で行った可能性がある」と見る。
 半世紀前の実験とは言え、重大な問題だ。生物兵器は、人や動物、植物に害を及ぼす大量破壊兵器の一つで、天然痘ウイルスやコレラ菌、炭疽(たんそ)菌などが知られる。
 75年に発効した生物兵器禁止条約(BWC)によって、開発、生産、貯蔵などが禁止されている。沖縄の実験が条約発効前だからと言って、不問に付すべきではない。
 生物兵器の使用は、BWCの半世紀前に作成されたジュネーブ議定書で禁止されている。生物兵器の研究開発自体、国際条約に背くもので、本来なら米国は非人道性を厳しく問われるべきなのだ。
 県内では、沖縄市や読谷村の米軍返還跡地などで猛毒ダイオキシン類を高濃度で含む枯れ葉剤の存在を示す物証や証言が相次ぐなど、基地汚染問題が後を絶たない。
 こうした中での、今回の問題発覚である。米軍は問題を直視すべきだ。当時の屋外実験が住民の健康や農作物、自然環境へ影響を及ぼさなかったか、生物兵器を含む大量破壊兵器の貯蔵・保管状況がどうなっていたかなど、徹底的に調査し真相を明らかにすべきだ。
 今回の一件は、米軍の事件事故や爆音被害、米兵犯罪などが絶えない沖縄において、住民の目に見えない所まで過酷な米軍支配が影を落としていたことを示すものだ。
 顕在化している基地環境汚染が氷山の一角であることも想像に難くない。環境汚染問題への的確な対応を担保するためにも、日米両政府は基地内調査の障壁である日米地位協定の抜本的改定に踏み出すときだ。