タイ反政府デモ 選挙実施し対話で解決を


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 「東南アジアの優等生」とされるタイで、政治の混迷が一層深まり、国家機能がまひしかねない状況に陥っている。

 インラック政権打倒を訴える反政府派が13日から首都バンコクの交通の要路を寸断する大規模デモに突入した。「バンコク封鎖」と称し、2月2日実施の総選挙延期を求め、圧力を強めている。
 首相退陣を求める反政府デモは昨年11月から3カ月に及ぶ。最大野党の民主党は、総選挙拒否で一歩も引かず、予定通り実施する構えの政権側と歩み寄る気配はない。
 政情不安の長期化は、経済活動に影響を及ぼしている。タイとの貿易額、投資額、援助額のトップは日本だ。タイへの進出企業も多いが、自宅勤務の長期化などの悪影響を受けている。
 首相は強制排除をしない方針だが、約3万人の警官や国軍兵士を投入して警戒を強めており、デモ隊との偶発的な衝突の恐れがある。流血の事態は絶対に避けねばならない。対話による打開を求めたい。
 民意を問う選挙を介さずに、政権を譲れと主張するのは近代国家として無理がある。反政府側は選挙実施に応じ、民主主義のプロセスを尽くして、望ましい国づくりの主張を堂々と尽くすべきだ。
 地方の農民らに対する貧困対策を手厚くし、低所得者層から評価が高いタクシン元首相を支持するか否かで、タイは国民を二分する政争が絶えない。タクシン氏支持派と、同氏の強権的な政治手法や金権体質を毛嫌いする都市部の中間層と軍、司法、官僚らを軸とする反タクシン派が反目してきた。
 2006年の軍事クーデターでタクシン政権が崩壊し、汚職の罪に問われたタクシン氏が国外に去った後も対立は解けず、逆に街頭を軸にした示威行動が強まっている。
 妹のインラック首相が、汚職の罪で海外に逃亡した兄が帰国できるようにする「恩赦法案」の強引な成立を図ったことで、反発した反タクシン派のデモが一気に拡大した。
 首相の座を去った実力者が隠然たる力を維持し、国民がいがみ合う構図は不幸だ。不毛の対立の恒常化は何の利益も生み出さず、国情の宿命と片付けるわけにはいくまい。経済の成長と政治の安定は背中合わせである。政権側と反政権側の双方が、国益を損なう対立を乗り越えて、国民融和に向けた知恵を出し合ってもらいたい。