自衛艦衝突事故 教訓は生かされたのか


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 自衛艦絡みの重大事故がこうも繰り返さるのは一体なぜなのか。強い疑問を禁じ得ない。

 広島県大竹市沖で15日朝、海上自衛隊の輸送艦「おおすみ」と釣り船が衝突。4人が乗っていた釣り船が転覆し、船長と釣り客の2人が死亡する痛ましい事故が発生した。犠牲者の冥福を祈るとともに、事故原因の徹底究明を求めたい。
 1988年には潜水艦「なだしお」が釣り船と衝突し、乗客ら30人が死亡。2008年にもイージス艦「あたご」と小型マグロ漁船が衝突し、漁船の父子2人が行方不明となり死亡認定された。
 いずれの事故も見張りの不適切さや艦内の連携不足、通報の遅れなど、自衛艦側の不手際が指摘された。このため海自は過去の事故を教訓に安全教育を改善し、衝突回避のための動作の訓練などを重ねてきたはずだ。今回、衝突を回避できずに犠牲者が出た結果責任は重大であり、教訓が十分に生かされたとは到底言い難い。
 現場は船舶の航行が多い海域だが、見晴らしは良く、これまで大きな衝突事故はなかったという。事故が起きた午前8時ごろは晴れで波も穏やかだった。夜が明けた安心感から緊張が解ける「魔の時間帯」を指摘する声もあるが、小回りの利く釣り船が巨大な自衛艦に衝突直前まで気付かなかったのは不可解の一言に尽きる。
 船の交通ルールを定めた海上衝突予防法では、相手を右側に見る船が回避動作を取るのが原則とされるほか、状況に応じて汽笛の長さや回数を使い分けるよう定めている。どちらに回避義務があったのか、おおすみの汽笛の回数なども焦点となるだろう。
 救助された男性によると、同じ方向に航行していたおおすみと釣り船の前を貨物船が横切り、おおすみが右に旋回した後、再び進路を左に変え、釣り船の右側がぶつかったという。ただ、事故に至る経緯の説明ではおおすみ側との食い違いも生じている。
 海上保安庁や運輸安全委員会の船舶事故調査官が現地調査に当たっているが、おおすみの乗組員やけががなかった釣り船の2人は、事実関係の解明に全面的に協力してもらいたい。
 あたご事故以降も、自衛艦がコンテナ船や漁船と衝突したり接触したりする事故は続いていた。海自の安全対策は信頼に足るのか。抜本的な見直しは避けられまい。