文科省是正要求 特定教科書強いる後付け


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 地域主権に根差して教育の自由を守る営みと、理不尽な見解を並べ立てて組み敷こうとする国とのせめぎ合いが、新たな局面を迎えている。

 八重山教科書採択地区内で使用する中学公民教科書が一本化されていないことに対し、国から是正要求するよう指示を出されている県教育委員会が事実上、竹富町を石垣市、与那国町から分離させる方針を固めた。
 県教委は、2市町と異なり、育鵬社の教科書を採用していない竹富町で教育の自由が担保され、児童生徒の授業に支障が生じていないことを踏まえて判断し、文部科学省に見解を求めた。県教委は(1)検定に合格した二つの教科書の一方の採択を違法とする合理性がない(2)今後、信頼に基づく公正な審議が行われなくなる-としている。八重山の教科書選定過程の非民主的な運営と、現場の実情を冷静にとらえた論理的見解を評価したい。
 これに対し、下村博文文部科学相は是正要求に従い、教科書一本化を迫る圧力を再び強めている。
 下村氏は地理的条件や関係自治体の規模などを挙げ、「八重山は一つの採択地区として設定すべきだ」と述べ、分割に否定的見解を示した。さらに、竹富町が分離した場合、「十分な教科書の調査研究ができない」としている。
 果たしてそうか。国家主義色が強い育鵬社を使用せず、竹富町は東京書籍を使用しているが、生徒の授業に何ら支障は出ていないことにまず目を向けるべきだ。
 竹富町が分離した場合、十分な調査研究ができないと決め付けるのは現状と乖離(かいり)している。竹富町教育委員会の慶田盛安三教育長による「特色ある教育課程を編成するには、本来、学校単位の採択が望ましい。採択地区は小さい方がいい」との指摘は、的を射ている。
 教科書無償措置法は、採択地区を市郡単位で定めており、町村単位での分割は想定していない。だが、文科省が昨年11月に発表した教科書改革実行プランは、地区の単位を市町村に柔軟化する方針を掲げており、県教委が是正要求が逆行していると疑義を示すのは当然のことだ。
 下村氏は「協議が難航した場合に採択地区を分割できるということではない」とするが、二律背反の後付けではないか。文科相は強権をちらつかせて、特定の教科書の採用を強制するかのような姿勢を改めるべきだ。