NHK会長発言 公共放送担う適格性疑う


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 公共放送のトップとしての適格性を疑わせる不用意な発言が相次いだ。政治的公平性や独立性の観点から看過できない。

 NHKの籾井(もみい)勝人会長は就任会見で「尖閣や竹島という領土問題は、明確に日本の立場を主張するのは当然のことだ」、特定秘密保護法について「通ったので言ってもしょうがないんじゃないか」と持論を展開した。
 従軍慰安婦問題でも「どこの国にもあった。今のモラルでは悪い」と述べた上で、個人的見解として「韓国が、日本だけが強制連行したと言っているから話がややこしい」と韓国を批判した。
 一連の発言は、タカ派色を鮮明にする安倍政権の主義主張の代弁と見まがうほどだ。時の政権に無批判に同調するかのような言動は報道機関トップの在り方として疑問だ。歴史認識については中国や韓国はじめ国際社会の反発を招いて外交問題にも発展しかねない。
 確認したいが、NHKは政府が運営する「国営放送」ではなく、政府から独立した「公共放送」だ。NHKの設置は放送法に基づくが、国営放送に堕することがないよう、政府からの独立性を保つための諸規定がある。基本的に税金でなく視聴者からの受信料で運営されるのも、報道機関として最も重要な独立性を保つためだ。
 籾井氏は「政府が右と言っているものを、われわれが左と言うわけにはいかない」と述べ、外国人向け国際放送で領土問題を取り上げる考えを示した。昨年10月の自民党の領土に関する特命委員会では「NHKの国際放送を活用すべきだ」との議論があったが、その思惑に呼応するものだ。
 秘密保護法については、日本新聞協会や日本民間放送連盟など報道機関だけでなく多くの団体が、国民の「知る権利」の侵害を懸念し抗議声明などを発表している。「政府が必要だという説明だから様子を見るしかない」との籾井氏の発言は報道機関トップとしての見識を著しく欠き公共放送の信頼をも傷付ける。
 当初から籾井氏の会長就任は「首相官邸の意向」とささやかれたが、就任会見で政権に近い人物であることははっきりした。
 ジャーナリズムの役割には権力の監視もあるが、籾井氏にその任務を全うする見識と覚悟があるのか甚だ疑問だ。中立性や独立性が求められる公共放送トップの職責の重さを自覚すべきだ。

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