「固有の領土」明記 「教育の政治化」は危うい


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 安倍政権が誕生してわずか1年1カ月で、教科書を政権の意向に沿って変える決定が相次いでいる。

 文部科学省は、学習指導要領の解説書に、尖閣諸島と竹島を「固有の領土」と明記した。下村博文文科相は、学習指導要領そのものに明記すべきだとの考えも示した。
 解説書、そして学習指導要領への明記は、学校現場で生徒に教えるよう命じるに等しい効果があるだけに、影響は大きい。
 中立であるべき教育に対する安倍政権の介入は急で、教育内容に国家の意思を反映させる「教育の政治化」が露骨すぎないか。国が示す歴史観や倫理観を強制する風潮を増長する危険な動きだ。
 解説書は、約10年ごとにある学習指導要領改定に合わせて見直される。次回は2016年に全面改定が予定されているが、その前に改定することは極めて異例だ。
 領土問題に対する安倍政権の強硬姿勢の表明と言えよう。
 安倍晋三首相が靖国神社を参拝し、中国、韓国が反発してから1カ月もたたない。この時期に解説書を改定したことで、両国は日本への批判を一層強めている。
 「固有の領土」との主張は、外交関係を通じて尽くしてきたはずではなかったか。あえて、教科書に明記し、両国との対立をあおることは得策ではあるまい。
 領土問題をめぐり、安倍首相は「対話の窓はオープンにしている」と再三言及し、中韓首脳との会談を早期に開催することで、関係改善を図るとしている。
 だが、今回の「領土明記」はその方針に逆行し、関係改善は遠のくばかりだ。国際社会に、事を荒立てているのは日本の側と印象付けることにもなろう。大局的には、日本の国益をも損なうだろう。
 教科書を改める動きは、「下村史観」とも呼ばれる文科相の国家主義的傾向と表裏一体で加速し、安倍首相の姿勢と合致する。
 国が一律に徳目を定める形での道徳の教科化を推し進めている。さらに、教科書検定基準についても見直し、近現代史の歴史的事実や領土などに関して政府見解を記載させる方向性を打ち出した。八重山地区の教科書を育鵬社版に統一する動き、「固有の領土明記」はその一環だろう。
 「国定教科書化」の疑念を呼ぶ動きが偏狭なナショナリズムを助長しないか、警戒が必要だ。