新薬拠点構想 県益になるか徹底議論を


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 事業の意義は一定程度理解できるが、手放しでは歓迎できない。

 2015年3月に返還予定の米軍キャンプ瑞慶覧の西普天間住宅地区(宜野湾市、約51ヘクタール)の跡地に、日米両政府が新薬の研究開発拠点を創設する方向で検討を進めていることが分かった。
 米海軍が蓄積する大規模な医療情報を活用し、日米の製薬会社や研究・医療機関が連携する施設になるという。
 人工多能性幹細胞(iPS細胞)などの再生医療技術を活用した新薬のほか、新型インフルエンザなどの感染症、統合失調症などの精神疾患の新薬開発にも取り組むという。それらに悩み苦しむ関係者にとっては、貢献度が高い施設と言えなくもない。
 自民党沖縄振興調査会は「海外にあった国内製薬会社の拠点を沖縄に置くことで医療の人材確保や雇用につながる」と説明する。西普天間返還跡地ではこの構想とは別に、重粒子線がん治療施設の整備構想も浮上している。
 いいことずくめのように思えてくる。ただ、本当に県民のためになるのか、疑問は多い。第一に、新薬拠点構想は地権者への説明はまだ行われていない。
 構想は日本政府関係者が米国防総省や海軍医療センターなどと協議し、持ち上がったようだ。自民党沖縄振興調査会は近く県や宜野湾市から意向を聞くというが、日米協力を優先し地元、県民の頭越しに進めている印象は拭えない。
 一方で米軍普天間飛行場の辺野古移設を容認する地元市長を後押しして、日米政府の方針に沿う形で普天間問題の打開を図ろうという政治的思惑も見え隠れする。
 大詰めのTPP(環太平洋連携協定)交渉で米国は、新薬の特許期間を長くするよう求めるなど、新薬先進国として権益の確保、拡大を図っている。新薬拠点がこうした動きとどう関係するのか釈然とせず、注視する必要がある。
 産業振興や雇用拡大がどこまで県民に還元されるのかも不透明だ。基地返還後も、県民を排除するような新たな特殊空間がつくられるのではないか。あってはならないことだ。
 日米関係を優先した県民不在の発想や手法で、基地の跡地利用が進められてはたまらない。
 誰のための施設なのか、県民全体の利益につながるのかという視点と議論が必要だ。政府には徹底した情報の公開と説明を求める。