年金不服請求 逆進性に輪を掛けるな


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 暮らしが成り立つ最低限の生活保障(ナショナル・ミニマム)は、憲法に照らし、是が非でも達成しなければならない。

 年金を減額していく政府の方針に反対し、削減撤回を求める不服審査請求を全日本年金者組合県本部が提出した。確かに、今でもぎりぎりの生活を送る年金生活者にとり、消費税増税と並行して減額が進むのは生存への脅威ともなりかねない。
 ただでさえ経済弱者の負担が大きい逆進性のある消費税だ。その増税と年金減額が同時に進むのは逆進性に輪を掛けることになる。社会保障の全体像を組み立て直すまでは減額を中止すべきだ。
 この春は増税に伴う値上げラッシュとなる。バスやタクシー、モノレール、電気料金、水道料金と、立て続けに明らかになった。
 いずれもライフラインそのものであり、値上げの影響は避けようがない。食品価格の値上げも必至だ。経済弱者ほど公共交通への依存率は高く、家計に占める食費の割合も高いのだから、より大きな影響を受けるのは明らかだ。
 年金削減は昨年10月から始まり、来年4月まで順次進む予定だ。確かに減額は物価変動に伴う措置だから、必ずしも給付水準の切り下げとは言い難い。デフレが進行した過去十数年の物価下落を反映せず、「高止まり」していた年金の「もらいすぎ」分を削り、元の水準に戻すだけという政府の言い分は理解できなくもない。
 だが、影響を避けようがない消費税増税と重なるのは、ダメージが大きすぎるというのもまた、誰の目にも明らかだろう。
 低い順に国民年金支給額と最低賃金、生活保護支給額となっている日本の現状が、あるべき順序と逆転していると指摘されて久しい。ただそれは、生活保護費を切り下げるという単純な話ではない。
 憲法が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を営む上で、最低限必要な額を生活保護で保障する。さらに、年金支給額や最低賃金をその上の水準に設定する。そうした形で社会保障の全体像を組み立て直す、といった丁寧な作業が必要だ。
 ただそれは財源も含め、長い議論を要するだろう。一方で生存に関わる以上、年金減額の問題は急を要する。いったん中止すべきだ。その上で社会保障の在り方を幅広く論じ、じっくり練り直して、国民的合意の下で実施したい。