安保法制懇 沖縄を再び戦場にするな


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 「戦争ができる国」への転換を急ぐ安倍政権は、その舞台を沖縄に設定しようというのか。

 集団的自衛権の行使容認について議論している「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」が、領土・領海侵入に対して、自衛隊が対処する事例を拡大すべきだとの認識で一致した。
 見過ごせないのは対処事例に関する論点だ。(1)領海内を潜航する外国潜水艦が退去要請を拒否した場合(2)武装した外国の集団が島しょ部を占有した際-などに関し、現行法制を問題視する意見が相次いだという。
 2012年9月の尖閣諸島の国有化以降、中国公船の領海侵入が常態化した。昨年5月には領海侵犯ではないが、沖縄周辺の接続水域内を航行する潜水艦が確認された。議論の背景にこうした動きがあることは明らかだろう。
 昨年12月に決定した防衛計画の大綱で政府は、尖閣を念頭に離島奪還作戦を担う部隊の創設を打ち出している。沖縄に新たな負担を強いる増強計画だ。安保法制懇の議論はこうした自衛隊の運用拡大を法制面で後押しするものだ。
 安倍晋三首相は1月の通常国会の施政方針演説で、防空識別圏設定や海洋進出などを進める中国を名指しで批判し、「力による現状変更の試みは決して受け入れることはできない」と表明した。
 安保法制懇はそもそも首相が設置した私的諮問機関だ。今回の議論は、明確な武力攻撃とは言えない領土・領海侵入など、自衛権の発動が許されていない事態で自衛隊が堂々と活動できるようにするものとも言える。「力には力で」という首相の国防観が色濃くにじむ。外交努力を二の次に、沖縄を舞台に対立をエスカレートさせかねない、非常に危険な動きだ。
 集団的自衛権をめぐり安保法制懇は4月に報告書を提出し、これを受けて安倍政権は集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈変更の原案を策定する構えだ。行使容認を前提に議論してきた私的機関の報告と巨大与党の数の力で、歴代内閣が積み上げた見解を変質させる行為が本当に許されるのか。
 首相が掲げる「積極的平和主義」の本質について国会は議論を尽くさねばならない。平和主義や専守防衛の国是を破壊するような権力の暴走は許されない。まして沖縄が再び戦場となりかねないような動きには強く反対する。