「建白書」破棄へ 沖縄の総意を後世に残せ


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 沖縄の民意に「見て見ぬふり」を決め込む安倍政権は、「オール沖縄」の意思が込められた歴史的文書まで不当に軽く扱い、しゃくし定規を押し通そうとしている。

 米軍輸送機オスプレイの配備撤回や普天間飛行場の県内移設断念を求め、県内の全41市町村長や議会議長らが署名して安倍晋三首相らに手渡した「建白書」が破棄の危機にさらされている。
 照屋寛徳衆院議員の質問主意書に対する政府の答弁書で、防衛省が一般の行政文書として処理していることが明らかになった。自治体の要望の添え物のごとき配付資料と見なし、保管されている。不誠実極まりない対応であり、到底容認できない。
 規定通りなら、保存期限の来年3月以降に破棄されてしまう。答弁書には、閣議決定した安倍政権の意思が反映されている。もし「建白書」が破棄されれば、「沖縄の民意」を抹殺するに等しく、人の道に反する。首相や県選出・出身の自民党国会議員はだまって見過ごすのか。
 名護市長選で普天間飛行場の辺野古移設に反対する稲嶺進氏が再選を果たしても、安倍政権は県内移設をごり押ししている。血のにじむような民意が凝縮された、沖縄戦後史に刻まれる建白書をめぐる冷淡な対応は、沖縄の民意無視の上書きにほかならない。
 憲法は、国民が文書で要望を出す「請願権」を認めており、官公庁にその要望を誠実に処理する義務を負わせている。請願者が差別待遇を受けないよう定めている。
 「建白書」は、県議会議員、全自治体の首長と議会議長が党派を超えて足並みをそろえ、沖縄の過重な基地負担と決別する決意を込めている。憲法が定める請願書そのものではないか。「建白書」が消え去ることはあってはならない。
 政府は「住所や居所の未記載」を挙げ、「請願法に基づく請願書として受理したものではない」と説明するが、木を見て森を見ない、お役所仕事そのものだ。過重な基地負担にあえいできた戦後史を土台にした、沖縄の民意を受け止める想像力が、安倍政権に著しく欠如していることの証左であろう。
 対応策はある。照屋氏や仲地博沖縄大副学長が指摘する通り、歴史公文書として国立公文書館に収蔵すれば、後世に残すことができる。安倍首相は閣議決定を見直す政治判断を下すべきだ。