インフルワクチン 沖縄発技術の実用化に期待


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 インフルエンザワクチンの製造に必要なタンパク質「ヘマグルチニン」を人工ウイルスを使って大量に生成する技術を、生物資源研究所(名護市)の根路銘国昭所長(74)らの研究チームが世界で初めて確立した。

 遺伝子組み換え技術による毒性を除いたウイルスとカイコを使うため、安全で副作用もなく、しかも低コストでワクチンの大量生産が可能になるという。インフルエンザ以外にも日本脳炎など各種ワクチン開発にも応用が利くというから、感染症対策の可能性が広がる新技術だ。
 人工ウイルスとカイコを使ったワクチンの量産技術が実用化できれば、世界的大流行(パンデミック)が懸念される新型インフルエンザ対策など、画期的な成果となることは間違いない。根路銘氏を核とする沖縄発のウイルス研究の一層の進展を期待したい。
 本部町出身の根路銘氏は、国立感染症研究所の呼吸器系ウイルス研究室長や世界保健機関(WHO)インフルエンザ・呼吸ウイルス協力センター長を歴任するなどウイルス研究の世界的権威として知られる。退官後、県内に研究拠点を設け、独自のワクチン開発や各種の研究事業を進めている。
 従来のインフルエンザワクチンは、原料となるウイルスを鶏卵を使って増殖させて製造するが、製造に半年ほどの日数を要するほか、コストも高い。昨春、中国を中心に感染・死亡者が相次いだH7N9型鳥インフルエンザのワクチン開発は、鶏卵培養ではウイルスがうまく増えないなど、大きな課題を残していた。
 根路銘氏の研究はカイコを使うのが大きな特徴だ。鶏卵培養に比べ、タンパク生成量が4万倍となる実験結果を得たという。
 人工的に合成した遺伝子とカイコを使ってヘマグルチニンを生成する技術は既に確立していて、インドネシアの国立大学とワクチン開発で技術提携している。今回は人工ウイルスを使って量産性と安全性を確保するなど技術研究を発展させた形だ。
 根路銘氏は「沖縄を司令塔に世界へのワクチン供給戦略基地を目指す」と語る。世界規模で展開する研究事業が県内を中心に進むことは心強く、ウチナーンチュとして誇らしい限りだ。今後は実用化に必要な臨床試験を着実に進め、世界の人々を救うワクチン開発で人類に貢献してほしい。