地教行法改正案 政治介入を招き危険だ


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 安倍晋三首相が教育委員会制度改革のための地方教育行政法改正案を今国会で提出することを明言した。教育委員会の改革案は教育長と教育委員長を兼務する「代表教育委員(仮称)」を設置し、首長に代表教育委員の任命権限を与え、教育基本方針の策定権を付与するものだ。教育への政治介入を容易にする改革案は危険だ。強い疑念を禁じ得ない。

 首長が代表教育委員を任命・罷免できるようにした点も疑問だ。現在は首長が任命・罷免できるのは教育委員で、罷免要件も病気などに限られている。だが改正後は首長の意に沿わなければたやすく罷免されるだろう。首長選挙のたびに教育内容が二転三転する可能性をはらんでいる。それで子どもたちの安定した学びの場が確保できるのか。
 教育委員会制度は戦前の教育への反省から出発していたはずだ。教育が戦争への道を突き進む原動力の一つになったとの認識に立ち、教育の民主化や地方分権を目指した制度だった。現在の教育委員会は原則5人の委員で構成され、地方教育行政の最終的な権限を持つ「執行機関」である。委員は議会の同意を得て首長が任命するが、首長から独立した組織だ。
 改正案では、教育行政の最終的権限を持つ「執行機関」を教育委員会に残すことで、政治的中立性を確保したと政府は説明している。だが首長に権限が集中している改革案は、政治家たる首長が政治的な思惑で教育内容に介入する「暴走」があり得る。実効性ある歯止め策が整っているとは思えない。
 安倍政権は首長の権限強化にこだわる。非常勤委員で構成する教育委員会の審議が形骸化し、いじめ自殺など緊急事態に対応できていないと主張している。そうであるなら、首長の権限強化ではなく、教育委員会を形骸化させない改善策を考えるべきではないか。
 教育政策の理念となる教育方針の策定の決定権を首長に付与していることも問題だ。執行機能を残したとする教育委員会も、罷免権を持つ首長に
果たしてどれだけ対抗できるのか。
 教育には時間がかかる。だから安定性が肝要なのだ。政治的な思惑で教育内容が変わり、選挙のたびに転変著しいのなら、不利益を被るのは子どもたちだ。法案はあまりに危険だ。政府は教育委員会の再活性化など、改正案と異なる道筋も視野に入れるべきだ。