TPP譲歩案 公約破りは国益も損なう


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 環太平洋連携協定(TPP)交渉をめぐり、日本政府が「聖域」に掲げる農産物の重要5項目のうち、牛・豚肉の関税引き下げなどの譲歩案を検討していることが明らかになった。

 選挙公約で守ると訴えた関税の引き下げは、国民を欺き裏切る行為にほかならない。よもや安倍晋三首相は「聖域なき関税撤廃が前提でないことが明確になった」と交渉参加を決断したことを忘れてはいまい。
 昨年の参院選で自民党は、コメ、麦、牛・豚肉、乳製品、甘味資源作物の5項目や国民皆保険制度を「聖域」に掲げた。衆参両院は5項目を関税撤廃の例外とするよう求める決議を採択。自民党も「聖域の確保を最優先し、それが確保できないと判断した場合は脱退も辞さない」と決議している。
 政府の譲歩案では、牛肉は相手国に有利な輸入枠を日本が設け、枠内に限り通常38・5%の関税を大幅に引き下げる。豚肉は低価格帯の輸入が増えるよう関税の仕組みを改める方向とされる。これに対し、今でさえ輸入物との厳しい価格競争にさらされている農家からは「畜産をやめるしかない」との悲痛の声が上がる。
 交渉妥結を急ぐあまり、自国民に犠牲を強いてまで、米国におもねる理由はどこにもないはずだ。公約破りは日本の国益を損なうと同時に政治不信をも増大させる。安倍政権は公約の重みに今こそ真摯(しんし)に向き合うべきだ。
 TPP問題の本質は、農産物や工業製品の関税撤廃だけではない。医療や雇用、金融サービス、食の安心・安全など影響は国民生活の多岐にわたる。企業が投資先政府を訴えられる「投資家と国家の紛争解決(ISDS)条項」など、国家主権や地方自治の根幹に関わる重大な問題もはらむ。
 しかも、その徹底した秘密主義が懸念や不信感を一層膨らませる。「国のかたちを変える」と形容されるにもかかわらず、交渉参加国は秘密保持契約を結ぶため、具体的な交渉過程や協定の内容について、詳細が一切明らかにされないためだ。国民不在の交渉はあまりに危うい。
 TPPが本当に国益にかなうのであれば、何も隠し立てをする必要はないはずだ。22~25日の閣僚会合については、協議内容を包み隠さずオープンにしてもらいたい。選挙公約を破るくらいなら、交渉から潔く脱退すべきだ。