米人権報告書 沖縄への構造的暴力なくせ


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 米国務省が2013年版の人権報告書を公表した。在日韓国・朝鮮人の排斥を掲げる「在日特権を許さない市民の会(在特会)」のヘイトスピーチ(憎悪表現)を取り上げ、懸念を表明した。

 日本政府や国会は指摘を重く受け止めるべきだ。憎悪表現については法規制も視野に、国会論議や国民的議論を深める必要がある。
 この問題に関しては、昨年10月、朝鮮学校周辺の街頭宣伝で憎悪表現を繰り返した在特会側に街頭宣伝の禁止と損害賠償を命じる判決が京都地裁で出ている。判決は憎悪表現が日本も批准する人種差別撤廃条約で禁止される人種差別に当たり、違法だと指摘。日本は国連人種差別撤廃委員会からも「憎悪的、レイシズム的表明に対する追加的措置」を求められていた。
 憎悪表現の規制について、国内では「表現の自由が脅かされる」として慎重論も根強いが、「殺せ」などの暴力的な表現による威圧行為は言論に値しまい。表現の自由へ十分配慮しつつも、人種差別を含む憎悪表現の法規制はもはや避けて通れないだろう。
 報告書は北朝鮮の人権状況にも言及し、約10万人を無期限に政治犯として収容していると推計。ケリー国務長官は「ありとあらゆる拷問と人道に対する罪の証拠がある」と厳しく非難した。
 国連がまとめた最近の報告書も、日本人ら外国人拉致や公開処刑などの残虐行為を例示し、北朝鮮が国家最高レベルで「人道に対する罪」を犯していると非難する。北朝鮮の人権侵害を抑止するため、国際的圧力を強める必要がある。
 一方、米報告書には大切なことが欠落している。米軍普天間飛行場の県内移設計画や普天間へのオスプレイ配備強行など、在沖米軍がもたらす人権侵害のことだ。
 沖縄側からすれば、県民の命や平穏な暮らしを脅かす米軍の存在、訓練実態こそ人権侵害の極みだ。他国の状況を問題視し、自国の人権侵害を顧みないのは二重基準だ。米国が民主国家だというのなら、沖縄に対する構造的暴力の象徴である辺野古移設計画を断念すべきだ。
 報告書から浮かび上がるのは、先進国、発展途上国を問わず世界各地で市民の人権が非民主的な政府や偏狭なナショナリズムなどによって脅かされている現実だ。国際社会は人権状況の改善に、最優先課題として取り組むべきだ。