慶良間国立公園 琉球弧の自然考える契機に


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 サンゴ礁が織りなす豊かな生態系と美しい景観は、人類の宝といっても過言ではない。世界に誇るべき自然環境を未来に引き継ぐ取り組みは、現代に生きる私たちの責務であることを確認したい。

 「サンゴの日」の3月5日に、慶良間諸島と沖合7キロまでの範囲が新たに国立公園に指定される。日本の国立公園は1934年に瀬戸内海、雲仙、霧島の3カ所が指定されたのが最初であり、慶良間諸島が31番目となる。県内では本土復帰の72年に指定された「西表石垣国立公園」に続き2番目だ。
 分割や拡張でない新規指定は87年の「釧路湿原」以来、実に27年ぶりとなる。豊かな自然環境を守り育んできた慶良間諸島の人々や関係者の取り組みに心より敬意を表したい。同時に国立公園化の意義と重みについても深く考えたい。
 大小30余りの島々からなる慶良間諸島は、沿岸海域の透明度が高く、約250種類のサンゴの生息が確認され、沖合はザトウクジラの繁殖地としても知られる。国内有数のダイビングスポットであり、ホエールウオッチングができる世界的にも貴重な海域でもある。
 先月27日に渡嘉敷、座間味両村と琉球新報社が主催したシンポジウムでは、環境保全の取り組みはもとより、人間と自然が共存できる関係構築の重要性が強調された。「保全」と「利用」のバランスをどう取るか、あらためて私たちの英知が試されている。
 国立公園化で知名度の向上が図られることで、今後は内外からより多くの観光客が訪れることだろう。渡嘉敷、座間味両村と関係者はこれまでもエコツーリズムを積極的に推進してきたが、この取り組みを一層進化させる必要がある。環境省や県、両村は連携して、生態系や自然環境に負荷を与えないルールづくりや、観光客の受け入れ可能人数などの判断基準づくりを進めてもらいたい。
 本土復帰後の振興開発事業は、県民生活の向上に大きく貢献する一方、豊かな自然環境に与えた影響もまた計り知れない。経済活動が優先されるあまり、「保全」と「利用」の均衡が大きく崩れていたためだ。
 慶良間諸島の国立公園化は、世界自然遺産登録を目指す「奄美・琉球」の自然環境を見詰め直す契機にもなろう。指定はゴールではなく新たなスタートにほかならないと肝に銘じたい。