水俣病認定指針 抜本的基準見直しこそ急務


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 環境省が水俣病認定基準の運用について、症状が手足の感覚障がいだけでも患者認定が可能とする新たな指針を定め、熊本県などの関係自治体に通知した。

 一見すると国が思い切った改善策を講じたように見える。だが現実は違う。被害者らが求める抜本的な認定基準見直しはかたくなに拒み、手足の感覚障がいと他の症状の組み合わせを原則条件とする現行基準を変更していないからだ。
 昨年4月、水俣病未認定患者の遺族が認定を求めた訴訟で最高裁は単独症状でも水俣病と認めるよう認定拡大を求める判断を下した。
 最高裁判決を踏まえた国の指針に関して、水俣病に詳しい富樫貞夫熊本大名誉教授は「(最高裁は)認定基準を一種の便宜的な判断条件と見なしたのだが、国は正面から認められたと判決を曲解し『複数症状が原則』とする既定路線を堅持しようとしている」と批判。国に対して認定基準を変更し、過去に棄却した人を再審査するよう求める。傾聴に値する指摘だ。
 今回の措置は手続きの民主的正当性という点でも疑問が残る。公開の検討会を開かず、環境省内や関係自治体の検討だけで透明性を欠く形で決めたとされるからだ。
 新指針が適用されれば、水銀摂取などを裏付ける「客観的資料」が必要とされる。指針は患者認定について「申請した人の水銀摂取状況や症状、両者の因果関係を総合的に検討して判断する」と明示するが、遠い過去にさかのぼった因果関係の特定など不可能に近いだろう。病院のカルテや居住歴を証明する戸籍など、何十年も前の発症時期の状況を確認する資料の提出要求は、国のないものねだりに等しいのではないか。
 「留意事項」で過去に現行基準で実施した認定処分の再審査は必要ないと明記した点も解せない。財政負担増の回避を意図しているとすれば不条理だというほかない。
 認定基準の厳格さから、これまで多くの申請者が退けられてきた。それなのに国はなおも恣意(しい)的な運用で認定のハードルを上げ、未認定患者の前に立ちはだかるのか。新指針について被害者団体が「被害者を無視した内容だ。より厳しくなった」と批判するのも当然だ。
 国は今からでも識者や関係自治体、被害者などによる第三者委員会を設けて議論を尽くし、患者認定基準を抜本的に改善すべきだ。