地位協定改定要求 人権侵害に終止符を打て


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 日弁連(山岸憲司会長)は、米軍基地被害で基本的人権が侵されている人々の被害回復、被害防止を図るため、日米地位協定の改定を求める意見書を公表し、安倍晋三首相や米大使館に提出した。

 意見書では、米軍が原状回復義務を負う環境規定の新設をはじめ、米軍への日本の法令適用を明確にすることや、刑事事件の容疑者の起訴前の身柄引き渡しなど、人権擁護の観点から重要とする7項目の改定方向を示した。普天間飛行場の辺野古移設に伴う埋め立てについても「神への冒とく」と明確に反対した。
 基地被害に苦しむ県民の長年の訴えを代弁する内容であり、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士の良心の表れとして、敬意を表したい。
 これまでも繰り返し主張してきたが、地位協定は人権や安全を脅かす不平等協定そのものであり、沖縄に過重な基地負担を強いる構造的差別の原因でもある。日弁連が協定改定を国内外に主張する意義は小さくない。日米両政府は直ちに抜本改定に着手すべきだ。
 意見書は、1960年に締結された地位協定の歴史的な背景に基づく問題点を指摘する。激動の安保闘争のさなかに十分な検討や国会審議もなく、旧安保条約下の行政協定を引き継ぐ形で締結されたため、「種々の問題(不平等性、不合理性)を内在させていると同時に、その解釈と運用で日米両政府の密約の影響を受けている」と本質を突く。日本政府は米軍絡みの事件、事故が起こるたび、地位協定の「運用改善」という小手先の対応に終始するが、いいかげん本質的な問題解決を急ぐべきだ。
 とりわけ環境条項は、2009年発効のイラク米地位協定でさえ、ドイツや韓国の事例を踏まえる形で設定されている。基地内への立ち入り調査権も持たない日本の後進性が際立つ。
 米軍関係者の犯罪については、「特に重要な事件以外、日本側は第一次裁判権を行使するつもりはない」とする密約の存在が判明している。昨年5月には長崎県で性的暴行容疑で書類送検された米兵2人が不起訴処分になった。密約の効力が今も続く疑いが濃厚だ。
 主権回復には程遠い国内の現状を安倍政権は直視すべきだ。憲法改正に前のめりになるのではなく、地位協定を抜本改定し人権侵害に終止符を打ってもらいたい。