ベビーシッター逮捕 子育て支援の取り組み急げ


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 痛ましい事件だが、特異な事例として片付けるわけにはいくまい。社会全体で受け止め、再発防止に取り組む必要がある。

 埼玉県内のマンションの一室で、ベビーシッターに預けられた2歳の男児の遺体が見つかった。横浜市に住む母親の長男だ。神奈川県警は遺体を放置した死体遺棄の疑いで、この部屋に住むベビーシッターの物袋(もって)勇治容疑者(26)を逮捕した。
 飲食店で働く母親は昨年、インターネットのシッター仲介サイトで容疑者と知り合い、長男と次男を月8千円で預ける契約を結び、4~5カ月間、週2回ほど依頼した。だが長男が顔を腫らし、背中にあざをつくって帰宅したことが2回あり、支払いなどをめぐるトラブルもあったという。
 母親はこの容疑者にもう依頼するつもりはなかったが、容疑者は偽名でサイトに登録。2児の迎えに来たのが代理の男性だったこともあり、気付かなかった。仲介サイトには同容疑者への苦情が複数の利用者から寄せられていた。
 残念ながら今回のような事件はどこでも起こる危険性がある。とりわけ子どもの割合が全国で最も高い沖縄は、あらためて子育ての実態を直視しなければならない。
 沖縄は全国一の出生率を誇る半面、一人親世帯率も突出して高い。雇用環境は全国で最も厳しく、共働き世帯が多い。就業形態の多様化で夜間に働く親も増えているが、保育所に入れない待機児童率は全国最悪であり、多様な保育ニーズに応えられる環境には程遠い。
 ネットを介した託児サービスは県内でも身近な存在のようだ。急な場合や深夜などの依頼でも、安価で手軽に託児先を見つけやすく、親たちの支えになっている。一方で運営実態の情報が乏しく、シッターには公的な認定制度がないなど問題も指摘される。厚生労働省は仲介業者の実態調査に乗り出す方針だが、県など関係機関は県内の状況を独自に調べてほしい。
 男児の母親は仲介サイトを利用したことに関し「お金も、預けるあてもなかったから」と話し、むせび泣いたという。胸がふさがる思いだ。
 核家族化や都市化で血縁、地縁が薄れていくのは、沖縄とて例外ではない。今回は社会の手の届かないところで悲劇が起きた。国などの政策支援に関する議論を急ぐと同時に、子育て環境の在り方を社会全体でもう一度考えたい。