クリミア併合 冷戦期に逆戻りするのか


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 ロシアのプーチン大統領がクリミア編入を宣言した。のみならず、ロシア軍とおぼしき部隊がウクライナ軍基地を襲撃した。政治的対立を越え、もはや戦争の様相だ。

 ソ連のアフガニスタン侵攻を想起させる。冷戦後の世界は、旧西側諸国だけでなくロシアも含めた枠組みで安定を図ってきたが、その秩序が崩壊しかけている。プーチン氏は世界を冷戦時代に戻すつもりか。
 今回の措置に世界の賛同は得られない。ロシアはクリミア編入を白紙に戻し、平和を確立すべきだ。
 クリミアは1954年、ソ連共産党のフルシチョフ第1書記が友情の証しとしてロシア共和国からウクライナ共和国に譲った地だ。両共和国ともソ連の一部だったから、単なる行政区分の変更にすぎなかったが、ソ連崩壊でウクライナが独立、ロシアにとりクリミアは「外国」になった。フルシチョフの措置は住民の意思を問わずに行ったものだ。だからロシア側は今回、その「歴史的誤り」を正したにすぎないと主張している。
 だが、もともとこの地の先住民はクリミア・タタール人やゴート族だ。18世紀にロシア帝国が併合し、ロシア人やウクライナ人の植民を進めた。ソ連発足後にはタタール人を中央アジアに追放し、近年になって帰還を許したという経緯がある。「歴史的誤り」を問うなら、その不当性も問うべきだ。
 今回、「独立とロシア編入」を問う住民投票を経たことで、ロシアは民主的正当性を主張している。だがこの投票は告示からわずか10日でなされた。しかも数万人規模のロシア軍を展開した上でのことだ。いわば、喉元に短刀を突き付けた上で問うた民意である。「民主的に正当」のはずがない。「力による国境変更」と非難されるゆえんだ。
 ただロシアから見ると、冷戦後の西側諸国は、東側の混乱に乗じて勢力拡大を図ったように見えるのだろう。北大西洋条約機構(NATO)は旧東側諸国にまで拡大、ロシアの隣国にまで弾道ミサイル防衛を配備しようとした。米国のイラク開戦も国際規範の無視だ。今回のロシアの無謀な行為は、冷戦後の野放図な在り方が準備した側面もある。
 もう一度国際規範を再構築すべきだ。ロシアも今回の編入を白紙に戻すことで発言権を回復し、新たな国際規範の形成に寄与する方が国益にかなうはずだ。