慰安婦隠蔽疑い 所蔵資料で強制性補強を

 戦時中の最たる人権侵害である旧日本軍の従軍慰安婦問題で、軍の組織的関与を示す新たな事実が明るみに出た。太平洋戦争中にインドネシアで海軍兵曹長だった男性が、現地での女性の強制連行と隠蔽(いんぺい)工作を証言していた。

 1962年に法務省が実施した戦争犯罪に問われた元軍人への聞き取りに対し、元兵曹長は「(慰安婦として)現地人など約70人を連れてきた」「他にも約200人を部隊の命で連れ込んだ」と、供述していた。
 関東学院大の林博史教授の研究室が国立公文書館の保管資料を見つけた。さらに、元兵曹長は、強制売春が戦争犯罪に問われることを「最も恐れた」と告白し、「軍需部などに強硬談判して約70万円をもらい、各村長を通し住民の懐柔工作に使った」と、隠蔽の生々しい実態を語っていた。
 軍当局が大金をばらまいてまで現地住民に口止めを図った事実は、重大な戦犯行為に当たると認識していた証左であろう。
 強制連行、売春強要が違法であることを熟知した日本軍が公文書に記録を残すことはほとんどない。加えて敗戦時には膨大な公文書が焼却され、従軍慰安婦問題などの検証を困難にしている。
 今回の兵曹長の供述は、強制連行、兵士の性のはけ口となる行為の強要、隠蔽工作がセットになっている点で重要だ。軍の組織的関与を十分に裏付けている。
 安倍政権は、日本軍の関与と強制性を認めた1993年の河野洋平官房長官談話を維持するとしつつ、作成経緯を検証する方針を崩していない。談話の根拠となった韓国の元慰安婦の証言に関し、韓国政府とのすり合わせがあったかを軸に検証する方針だ。
 「命令書」の発見が難しいことを想定して被害者の証言内容に疑義を挟み、「強制性」を徐々に否定することをもくろんでいるのではないか。なお、疑念は尽きない。
 従軍慰安婦問題の本質は、日本軍による組織的な戦時性暴力がなされたことにある。河野談話の検証に際し、加害者側の日本軍などが残した暴力行為の有無に比重を置き、元慰安婦の証言の作成経緯を調べるというのは、本末転倒ではないか。
 今回の新資料は法務省が所蔵しながら、河野談話にも反映されていない。軍の組織的関与を示す足元の一級資料にも目を向け、強制性の証明を補強すべきだ。



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