袴田事件再審 一刻も早く裁判開始を


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 1980年に死刑が確定した元プロボクサー袴田巌さんの第2次再審請求審で、静岡地裁は裁判のやり直しを認める決定をするとともに死刑の執行停止、釈放を認め、袴田さんは釈放された。

 DNA鑑定という科学的裏付けによって確定判決が覆った以上、検察は判決を重く受け止め、即時抗告せず再審を受け入れるべきだ。死刑確定判決から34年。袴田さんは78歳の高齢であり、長期の拘禁で心神耗弱に陥っているという。一刻も早く再審を開始するよう求める。
 袴田事件は、自白に頼り冤罪(えんざい)を生み出す日本の刑事司法制度の構造的な問題を浮き彫りにした。
 村山浩昭裁判長は有力証拠とされた「5点の衣類」について、袴田さんのDNAと一致しないとする鑑定結果を認めた。衣類は「元被告のものでも犯行着衣でもない。無罪を言い渡すべき明らかな証拠に該当する」と判断した。足利事件、東京電力女性社員殺害事件に続き、鑑定技術の進歩が再審決定判断に影響したといえる。
 判決は「捜査機関が証拠を捏造(ねつぞう)した疑いがある」とまで踏み込んでいる。一審を担当した裁判官は後に、審理が進めば進むほど自白や証拠への疑問が湧き上がったと証言している。捜査当局は証拠を捏造したのかどうか、徹底的に検証し説明する責任がある。
 第2次請求審は新たに約600点の証拠が開示され、確定判決の事実認定に疑問を抱かせる証言や物証の存在が明らかになった。最高裁は75年、新証拠と旧証拠を総合的に判断し、有罪にするのに疑問が残れば再審を開始すべきだとの指針(「白鳥決定」)を示している。今回の判決はこの指針に沿ったもので評価できる。
 村山裁判長が自白調書について証明力が弱いと指摘している点も重要だ。袴田さんが主張しているように、取り調べ過程で暴行や威圧によって虚偽の自白を強要したのか検証する必要がある。
 憲法38条は強制、拷問もしくは脅迫による自白は証拠とすることができないと定めている。現状は取り調べが密室で行われるため、自白が強要されたかどうか検証できない。
 外部からの事後検証を可能にするため、法制審議会は取り調べ過程の録音・録画(可視化)の制度化を急ぐべきだ。自白強要の温床と指摘される代用監獄制度も廃止すべきだ。