陸自与那国配備 国境の島の可能性摘むな


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 政府は4月、与那国島への陸上自衛隊の沿岸監視部隊配備に向けた工事に着手する方針だ。

 昨年6月の町長選で再選された外間守吉町長は自衛隊誘致を推進しているが、2月に町が単独で初めて実施した説明会では批判が相次ぎ、住民の不安が噴き出した。
 陸自配備が島の活性化につながるのか、島しょ防衛の前線部隊の配備による中国などとの緊張の高まりなど、本質的課題は議論不足のまま山積している。1500人余の町民の賛否は割れ、あつれきが絶えない。着工は反対の声を無視した強行にほかならず、到底容認できない。
 配備が予定される与那国町有地をめぐり、防衛省と町は近く賃貸借契約を交わす。町有地を使っていた農業生産法人と国の補償交渉は難航していたが、反対する代表が辞任して配備推進派が代行に就き、町有地提供が確定的になった。賛否両派の対立は、ここにも影を落としている。
 自衛隊誘致派は自衛隊を過疎問題解決の手段と位置付け、経済効果に期待を寄せる。反対派の大半は、台湾などの周辺国・地域との平和交流を通して発展を模索すべきだと主張している。町が誘致にかじを切って以来、活発化しつつあった国境交流は停滞している。
 与那国町は自衛隊誘致による経済活性化を唱えるが、そもそも国の配備目的は、島しょ防衛であって地域活性化ではない。約100人の隊員が駐屯しても、基地建設費や補助金による経済効果は限定的だ。これでは疲弊する島内経済の立て直しは見通せまい。
 沿岸監視部隊のモデルは北海道の礼文島の部隊とされるが、1970年に7535人だった礼文島の人口は、2013年12月には2823人に激減した現実がある。
 2007年、当時のメア在沖米総領事が、有事の際に与那国の港湾が掃海拠点として使用できると本国政府へひそかに報告していた。
 防衛白書に記された島しょ防衛は、敵の状況に応じて攻撃を受けないように部隊を配置するが、攻撃されたり占領されれば奪還することを意味する。「島の奪還」は「戦場化」と同義である一方で、島民の安全確保策への言及は乏しい。
 与那国町民が将来の日米の基地共用化も見据えて不安を抱くことには、大いにうなずける。「国境の島」の発展の可能性を摘みかねない陸自配備はやめるべきだ。