ハーグ条約 もっと十分な手だてを


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 国際結婚破綻後の子どもの扱いを定めたハーグ条約に日本が正式加盟した。これに伴い、話し合いなど裁判以外の方法で解決する手続き(ADR)の業務も沖縄弁護士会で始まった。

 前進だが、沖縄の女性や子どもの利益を確保する上ではさまざまな仕組みや制度改善が必要で、これは第一歩にすぎない。政府はもっと十分な手だてを講じるべきだ。
 条約は、16歳未満の子を一方の親が国外へ連れ去った場合、残された親が求めれば原則として元の国に返さないといけない、と規定する。米国人男性との結婚が破綻した日本人女性が子を連れて帰国した例で言うと、ADRを介した話し合いが不調に終われば、東京か大阪の家庭裁判所が返還命令を出すことになる。
 条約の規定は、慣れ親しんだ元の居住国にいることが子どもにとって利益だという考えに基づく。子を連れて母国に帰ることを、米国などは「誘拐」のように見ている、という事情もある。
 加盟を拒む理由として日本は夫の家庭内暴力(DV)を挙げていたが、米国は「ごく限られた事例だ」と主張していた。
 だが国際離婚を手掛けた弁護士の大貫憲介氏は、「子を連れ帰るのは夫のDVや虐待に苦しんだ女性が大半だ」と言う。妻が夫の虐待やDVを立証し、家裁が子どもに「重大な危険」が及ぶと判断すれば、返還を拒否できるとの規定が条約にはある。だが厳密な立証を求められたら敗訴しかねない。
 元妻が米国在住中に日本の在外公館に相談していれば、面談記録が証拠になるというが、そんな仕組みなど知らない人が大半だろう。外務省を通じ米国の病院や警察から診断書や相談記録を取り寄せるのも可能とするが、どの程度機能するか。傷の写真なども撮っておかない人が多いはずだ。政府は制度の周知を徹底してもらいたい。
 裁判を東京と大阪の家裁に限定しているのも問題だ。政府は裁判官を公費で沖縄など当事者の所在地に派遣して尋問することは可能というが、あくまで可能性にすぎない。派遣を確実に行うことを明文化すべきだ。
 沖縄にはかつて国際福祉相談所があり、国際結婚が破綻した場合の相談を受けていたが、予算削減で1998年に廃止された。復活してもらいたい。そもそも、米国の元配偶者から養育費を確実に徴収する制度を確立すべきだ。