教科書検定 強まる国家統制の動き


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 これで自ら考え、複雑な問題を解決する力を育てることができるのか。強い疑問と懸念が湧く。

 来春から小学校で使う社会科の教科書全てが、韓国と中国が領有権を主張する島根県の竹島(韓国名・独島)と尖閣諸島(中国名・釣魚島)について記述し、日本の領土であることを明記した。
 教科書検定に際し出版社が、愛国心教育を重視する安倍政権に配慮して、政府見解を紹介した格好だ。
 既に多くの中学、高校の教科書が竹島や尖閣諸島に触れ「日本の領土」と記述しており、この流れに沿って小学校でも領土教育が強められることになる。
 しかし教科書では、領土問題でどのような対立や見解の違いがあるかなどは触れていない。容量の限界や小学校でどこまで教えるかの議論はあろうが、政府見解を教えるだけでは多角的なものの見方や想像力を育むことはできない。
 中国や韓国からは「洗脳」(朝鮮日報)を小学生にも始めた、など強い反発が起こっている。政府による過剰な介入は国同士の関係をさらに悪化させるだけだ。
 沖縄戦に関する記述にも同様の問題がある。「集団自決」(強制集団死)については4社の3冊で引き続き記述されたが、いずれも日本軍の関与には触れていない。
 このため教科書では、集団自決の主因は米軍にあると受け取れかねない記述になっている。「アメリカ軍の攻撃で追いつめられた住民の中には、集団で自決するなど、悲惨な事態が生じました」(東京書籍)といった具合だ。
 住民を壕(ごう)から追い出す、スパイ容疑で殺害する。米軍への恐怖心をあおり、捕虜になることを許さず、手榴(しゅりゅう)弾を配る-。
 日本軍のこのような関与なしに集団自決は起きなかった。こうした記述が省かれ簡略化されては、沖縄戦の本質はゆがめられ、実相は伝えられなくなる。
 全国の児童が学ぶことを考えれば、これを看過するわけにはいかない。沖縄戦の実相を伝えるために、誤解を招く記述は改めるべきだ。
 安倍政権による教育への介入は特定秘密保護法や憲法解釈見直しなど、国家統制の動きと一体だ。
 こうした動きを注視するとともに、教科書を唯一絶対のものにするのではなく、多様な教材や学習機会を活用することで教育の自主性を守ることが一層重要になる。