調査捕鯨敗訴 撤退し政策転換決断を


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 日本が南極海で実施してきた調査捕鯨をめぐり、国際司法裁判所が停止を命じる判決を下した。日本の完敗である。

 判決は、商業捕鯨を禁じる国際捕鯨取締条約が例外として定める「科学研究目的」と認めず、現行の調査捕鯨は条約違反と認定した。
 裁判は一審制で控訴できず、言い渡しで判決は発効した。日本政府は渋々ながら判決に従い、2014年度の南極海調査捕鯨の断念を決めた。法治国家として当然の判断だ。
 漁業資源である鯨の個体数が復活しつつある研究成果を示して、商業捕鯨再開につなげる戦略は通じなかった。商業捕鯨再開の可能性はほぼついえたのではないか。
 捕鯨取締条約は、調査目的の捕鯨と捕獲で得た鯨肉販売を許容してはいる。しかし、判決は、調査目的が変わらないのに、約300~400頭だったミンククジラ捕獲枠が2005年以降に一気に約900頭に増えた点や、科学的業績の少なさなどを問題視した。
 1982年に国際捕鯨委員会(IWC)が商業捕鯨を一時停止して以降、日本がクジラ捕獲を正当化する根拠にしてきた「調査」の科学性を明確に否定された。
 提訴した豪州などの反捕鯨国が勢いづき、北大西洋でも続く調査捕鯨に対して国際社会から険しい視線が向けられることは確実だ。
 今回の判決を南極海、北大西洋の双方で調査捕鯨から撤退する契機とすべきだ。その上で、沿岸で続く伝統的な捕鯨の永続に向け、政策転換を決断した方がいい。それは、IWCでも議論されており、現実的選択である。
 戦後、国民の貴重なタンパク源だった鯨肉の消費量は、最高だった1962年度の約23万トンから、2011年度は約5千トンに激減し、最盛期の2%足らずだ。家庭の食卓で姿を消しつつあり、調査捕鯨で捕った鯨肉は売れずにだぶつき、在庫は増え続けている。
 調査捕鯨の年間費用約70億円のほぼ半分を税金で賄う。東日本大震災の復興予算から約22億円が流用され、批判を浴びた。悪循環に陥って久しい調査捕鯨に対し、多額の国費を投じ続けるのは無理がないか。
 伝統的な沿岸捕鯨と鯨食文化は今も地域に息づく。食料資源と文化両面の価値を守るためにも、調査捕鯨の撤退を軸にした捕鯨政策の転換と、国際社会も納得する外交戦略の練り直しが求められる。