日豪EPA 開かれた議論が必要だ


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 安倍晋三首相とオーストラリアのアボット首相が経済連携協定(EPA)の締結で大筋合意した。

 オーストラリア産牛肉について、日本は現在38・5%の牛肉関税を段階的に引き下げる。日本車の輸入関税(現行5・0%)は、協定が発効すれば日本からオーストラリアへの自動車輸出額の約75%で関税を即時になくし、残りも3年で撤廃するという。
 この合意に違和感を覚える。全体像や交渉過程が不透明だからだ。畜産農家らが「選挙のときは聖域を守るといったはずだ」「畜産経営に追い打ちを掛けるものだ」などと反発するのも当然だ。
 牛肉関税引き下げは、具体的には冷凍品を協定発効から18年目に19・5%、冷蔵品を15年目に23・5%とする。輸入が一定量を超えた分は関税を38・5%に戻す。
 安全性や高級ブランド化などで外国産に対抗してきた国内農家にとって、関税引き下げは死活問題だ。政府は安価な牛肉が国内市場に流入する事態に備え、畜産農家向けの対策を検討するというが、拙速な協定締結は許されない。
 日豪EPAをめぐり仮に国民合意が存在するのなら、補償金支給などの激変緩和措置は理解できなくもない。だが政府は消費増税と社会保障改革を一体的に進めると国民に約束しながら、次々と社会保障の給付水準は切り下げている。こうした矛盾を抱えたまま、畜産農家の赤字補填(ほてん)のための税金投入を国民がすんなり納得するだろうか。継続性も疑わしい。畜産農家も一時的な補償でお茶を濁されないか、不安を覚えるだろう。
 日豪合意について「環太平洋連携協定(TPP)交渉を後押しするもの」(米倉弘昌・経団連会長)と歓迎する向きがあるが、疑問だ。TPPは関税撤廃だけでなく、医療や雇用、金融サービス、食の安全など国民生活全般に影響が及ぶ。国民の安全を破壊しかねない協定は後押しすべきではない。
 日本政府には、TPP交渉で強硬に関税撤廃を主張する米国をオーストラリアとのEPAでけん制したい思惑があるようだ。だが、そもそもTPPへの国民合意が存在しないことも自覚すべきだ。
 懸念が指摘されるTPPの秘密主義と同様、日豪EPAの不透明ぶりも問題だ。民主主義に反する進め方は到底容認できない。開かれた議論をやり直すべきだ。