ウクライナ情勢が再び緊迫の度を高めている。その主因は、軍事力を誇示し、ウクライナへの圧力を強めているロシアだ。
クリミア編入と同じ武力による介入は国連総会決議に反する。断じてあってはならない。
ロシアはウクライナ国民の主権を尊重し、法治主義の原則を見失った行動を自制すべきだ。
ロシア系住民が多いウクライナ東部の3州で、親ロシア系住民のデモ隊が地方政府庁舎を占拠している。二つの州で、親ロ派系住民が一方的に「人民共和国」創設を宣言した。1州は独立の是非を問う住民投票も実施するとしている。
ウクライナ憲法に違反する住民投票を経て、ロシアに編入された南部のクリミア半島で起きたことが繰り返されようとしている。
ロシアは、ウクライナ東部と接する国境地帯に軍を集結させ、混乱拡大の際は介入も辞さない姿勢を示している。プーチン大統領は3月31日、ドイツのメルケル首相との電話会談で、国境地帯で展開していた部隊の一部を撤収すると伝えたが、軍は居座り続けている。
米政府は、ロシアの特殊部隊や情報機関員が越境し、親ロ派住民をあおっていると批判している。
混迷が深まる中、過激な親ロ派住民と治安当局が衝突する可能性が高まっており、ロシアによる軍事侵攻が現実味を帯び始めた。
経済的な締め付けも強まっている。天然ガスの大幅値上げを通告し、さらに全額前払いを要求する方針を掲げた。700億ドル(約7兆1千億円)を超える政府債務を抱え、経済が破綻状態に近いウクライナ側が受け入れ難い条件を示し、揺さぶっている。
東部3州でも分離独立を目指す動きが加速している背後にロシアの存在があることは間違いない。
ロシアは、ウクライナに憲法改正を求め、連邦制移行と軍事的中立を宣言するよう求めている。ロシア系住民の保護は口実であって、連邦制で自立度を高めた東部への影響力を強め、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)への加盟阻止を狙っていることは明白だ。
国家の統治体制を決めるのはウクライナ国民の側だ。5月に予定される大統領選で本格政権が発足する。ロシアは軍を撤収した上で、国際社会と協調して公正な選挙の実施を導き、正統性のある政権樹立にこそ力を注ぐべきである。