米歴史家の良識 世界の支援を生かそう


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 米軍普天間飛行場返還問題の本質を見抜き、名護市辺野古への新基地建設に反対する米歴史家の慧眼(けいがん)に敬意を表したい。

 米国の日本占領研究の金字塔とされる『敗北を抱きしめて』でピュリツァー賞を受賞したジョン・ダワー米マサチューセッツ工科大名誉教授が、共同通信の取材に「戦争がどんなものか知っている沖縄の人々の声には、平和へのビジョンがある」と述べ、新基地を拒む沖縄県民を支持した(本紙11日付6面)。
 ダワー氏は、日本の軍国主義政権が沖縄を本土防衛の「捨て石」にした沖縄戦や、サンフランシスコ講和条約に基づく日本の主権回復と沖縄の米軍政下への分離、朝鮮、ベトナム両戦争を担った在沖米軍に言及。「沖縄が日米両政府に利用され、犠牲にされてきた」との思いから支持したと語った。
 注目したいのは、ダワー氏が米国を国防エリートと金をもうける企業らが支える「国家安全保障国家」だと批判し、沖縄を犯罪、退廃、環境破壊の元凶である「基地帝国主義国家・米国」の一部と見なしたことだ。つまり軍事植民地状態と認識しているのだろう。
 米国防予算の審議で、民主党下院議員がオスプレイの危険性と全米40州の企業2千社が製造に関わっている実態に言及し、「国防総省が雇用創出を図っているようだ。翼のついた危険な利益供与だ」と批判したことがある。
 こうした経緯から、軍産複合体へのダワー氏の懸念はうなずける。これは、アイゼンハワー米大統領が1961年の退任時に「国家や社会に過剰な影響を与える軍産複合体に気を付けよ」と発した警告とも通底する。沖縄の前に立ちはだかる軍産複合体をどう乗り越えるか。良心的な米市民との連帯など、沖縄の構想力が問われよう。
 ダワー氏は今年1月、言語学者ノーム・チョムスキー氏やアカデミー賞受賞映画監督オリバー・ストーン氏ら世界の識者と共に、辺野古移設計画への非難声明を発表。声明は「沖縄の人々は米国独立宣言が糾弾する『権力の乱用や強奪』に苦しめられ続けている」と指摘し、県民の「平和と尊厳、人権と環境保護のための非暴力の闘い」への支持を表明した。沖縄側も海外からの支援にしっかり呼応したい。
 日米は民意と識者の声を肝に銘じ、普天間の閉鎖・撤去、県外・国外移設を真剣に検討すべきだ。