TPP対米交渉 なし崩しの公約違反だ


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 環太平洋連携協定(TPP)をめぐる日米交渉が難航する中、安倍晋三首相が国民と約束したはずの重要5品目のうち、牛肉の関税維持が風前の灯火(ともしび)となってきた。

 2日に及んだ閣僚協議の中で、米国産牛肉の関税撤廃を強く求めていた米側は、数%程度なら関税を認める譲歩案を示した。
 日本側は難色を示したものの、関税維持を前提にしたわけではない。米国が打ち出した関税が低すぎることへの反発だ。関税をどこまで引き下げられるかに論点が変わっている。
 安倍政権は、コメや麦、サトウキビなどと共に牛肉も「聖域」に掲げて関税維持は譲れないと主張してきた。牛肉の関税引き下げが協議されること自体、明確な公約違反であることを確認したい。
 24日の日米首脳会談で大筋合意にこぎ着けようと詰めの交渉が続くが、拙速かつなし崩し的に公約違反に当たる妥結をしてはならない。そもそも、公約に反する関税の撤廃、引き下げに国民はお墨付きを与えていないのである。
 日本は、オーストラリアとの経済連携協定(EPA)の締結に大筋合意したばかりだ。牛肉の関税を現行の38・5%から引き下げ、最終的に冷凍は19・5%、冷蔵は23・5%とすることになった。
 自民党は、対米交渉で豪州とのEPAを上回る譲歩をしないよう求める決議をしたが、衆参両院が決議した関税維持の主張はどこへいったのか。腰砕けではないか。
 今回の閣僚協議では、独り勝ちを狙う米国の強硬姿勢がはっきりしてきた。米側が日本製自動車の5%の関税撤廃時期を30年後とする案を提示し、日本側が拒んだ。牛肉の関税をめぐる譲歩案を日本が拒んだことへの意趣返しだろう。
 TPP交渉は疑問点が多い。貿易自由化の進展が目標であったはずだが、本当にそれが真の目的なのか。日本車の関税撤廃が30年も先になるという提案は、露骨なまでのアメリカ基準の押し付けであり、ほとんど自由化の否定に等しい。自国の利益を最優先する米国の傲慢(ごうまん)さは自動車だけにとどまらないだろう。
 交渉内容が非公開だから、主権者の国民も最高意思決定機関の国会も中身の是非を具体的に評価しようがない。TPPの徹底した秘密主義が日本の国益、国民生活を毀損(きそん)しないか懸念を拭えない。非民主的な交渉を続けるくらいなら、日本は撤退を視野に入れるべきだ。