与那国陸自着工 見切り発車は禍根を残す


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 防衛省は19日、小野寺五典防衛相らが出席し、与那国町で陸上自衛隊の沿岸監視部隊配備に向けた施設建設の着工式典を開いた。

 陸自配備の賛否をめぐり、人口約1500人の町民は二分されたままであり、見切り発車の印象は拭えない。既成事実化を急ぐかのような施設建設の開始は、住民間の亀裂を一層深めることにならないか、強い危惧を覚える。
 沿岸監視部隊の任務は、国境付近の沿岸部から外国艦船や航空機を監視し、情報収集することで、与那国島には150人規模の隊員が配置される。政府の狙いは、中国の海洋進出をにらみ、南西地域の防衛力強化を図ることにある。
 防衛省は2015年度末までの部隊配備を計画しているが、早期着工に向け、なりふり構わぬ姿勢も際立っている。
 象徴的なのが、駐屯地建設予定地の町有地を賃借していた農業生産法人南牧場に対する損失補償額の大幅な上積みだろう。契約を解除するに当たり、当初は1億1千万円を提示していたが、牧場側に拒否されたことから、結果的に2億4千万円まで引き上げた。
 損失補償の算定基準などないに等しいと批判されても反論できまい。税金の使い方として適正とは到底思えない。
 配備を急ぐ政府と、島の活性化を期待する賛成派の住民の思惑にも、ずれはないだろうか。
 自衛隊関連の施設建設やインフラ整備などで一時的に島は潤うだろう。だが、陸自配備が過疎化の歯止めとなり、島の自立の起爆剤となるとは思えない。それが自衛隊の本来の目的ではないからだ。
 米軍基地を抱え多額の基地関連収入を得ている自治体の姿から、それは分かる。基地依存体質からの脱却に向けて腐心する実態を反面教師とすべきではないか。
 また防衛力強化とは裏腹に、尖閣諸島の領有権を主張する中国を刺激して緊張が高まらないかなど、
安全保障への疑問や懸念も尽きない。こうした本質的な議論が置き去りにされていることが、住民同士の対立が解けない根本的な原因ではないか。
 国境の島の活性化に向けては、住民が一致団結することが何よりも求められる。住民が分断されたままでは、新たなまちづくりや島の発展は望むべくもない。見切り発車の陸自配備は、将来に大きな禍根を残すと認識すべきだ。