労働規制緩和 「勝ち組負け組」助長を危惧


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 安倍晋三首相が政府の経済財政諮問会議と産業競争力会議との共同会議で、労働者の働き方を時間ではなく成果で評価する新たな仕組みを検討するよう指示した。

 労働時間を自己裁量とする代わりに残業代や深夜労働などの割増賃金を支払わない「ホワイトカラー・エグゼンプション」制度を念頭に置いたものとみられる。
 同制度導入については、人件費削減の観点からも産業界に強い期待があり、首相の指示もそれに沿ったものだ。しかし、労働の成果を過度に重視してしまい、働く人の職場環境を悪化させるのではないかと、強い疑念を抱かざるを得ない。
 「ホワイトカラー」は、第1次安倍内閣でも導入が図られたが、長時間労働や過労死を招く「残業代ゼロ法案」として労組などが反発し、見送られた経緯がある。
 共同会議での議論では、今回は高収入や高度の職業能力を持つ社員に加え、労使合意で対象職種を決めるという具合に対象が拡大しているのが大きな特徴だ。しかし労使の力関係から、企業側に有利な人件費削減策に利用されないかとの危惧が付きまとう。
 「名ばかり管理職」を思い起こす。形だけ権限を与えて残業代を支払わない収奪型の経営姿勢が、社会の強い批判を浴びた。
 しかしその後も、「名ばかり」は改善されていない。厚労省の昨年の調査では、従業員全体の7割を管理職扱いにし残業代を支払わなかった企業の例も見られた。
 合同会議は「働き過ぎ防止に真剣に取り組むことが改革の前提」とも強調する。しかし、労働者の権利を損ねる経営の在り方を放置したまま労働時間などの規制緩和を推し進めては、しわ寄せは労働者の側にいくだけだ。
 成果を挙げれば短時間で切り上げる社員の一方で、成果を挙げるまでは残業代もなく長時間労働を余儀なくされる社員がいる。そんな職場環境が本当にいいのか。
 「勝ち組負け組」の風潮を、社会全体にさらに助長しかねない。「弱い立場の労働者がますます追い込まれる。過労死も『自己責任』になってしまうかもしれない」。「全国過労死を考える家族の会」代表の寺西笑子さん(65)の言葉は重い。
 非正規雇用をはじめ、労働環境の改善なくして日本経済の再生はおぼつかない。首相は非人間的な労働を先導してはならない。