日米首脳会談 辺野古は現実離れ 「構造的暴力」を許すな


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 安倍晋三首相はオバマ米大統領との日米首脳会談で、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設について「強い意志を持って早期かつ着実に進める」と伝達した。

 安倍首相は「自由と民主主義、基本的人権の価値を(米国と)共有する」と語った。だが、沖縄に対しては県外移設を求める民意を無視し新基地を押し付ける。これは「構造的暴力」に他ならない。
 辺野古見直しを求める手紙を書いた米大学名誉教授に大統領名で届いた返信は「民主主義と普遍的権利のために立ち上がる世界中の人々と共にいる」だ。それなら沖縄にも普遍的権利を適用すべきだ。

「積極的平和」

 平和学の第一人者として知られるヨハン・ガルトゥング氏はかつて、基地の過重負担を強いられている沖縄を「平和と対立する構造的暴力の下に置かれている」と指摘した。そして「構造的暴力」を断ち切ることが「積極的平和」だと定義している。
 この理論に従うと、普天間飛行場の閉鎖・撤去、新基地建設断念は「積極的平和」につながることになる。
 ガルトゥング氏は、米軍普天間飛行場の即時返還と辺野古新基地建設反対に賛同する海外識者の呼び掛け人に名を連ねている。首脳会談で安倍首相がオバマ氏に語った軍事偏重の「積極的平和主義」とは全く違うものだ。
 オバマ氏は首脳会談後の共同記者会見で、中国が領有権を主張する尖閣諸島は、米国による日本防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条の適用対象だと表明した。国務・国防両長官が明言したことの再確認であり、中国へのけん制と見るべきだろう。
 第5条適用だからといって尖閣で紛争が発生した場合、米国が直ちに軍事介入するわけではない。第5条は日本が武力攻撃された時は「両国は自国の憲法にしたがって行動する」と規定している。米国憲法は、議会に戦争宣言権を与えているので、大統領は議会を説得しなければならないからだ。
 日米は2005年、防衛について役割・任務の分担を確認した。日本の役割は「島嶼(とうしょ)部への侵攻への対応」だ。孫崎享元外務省国際情報局長が指摘するように、尖閣へ中国が攻めてきた時は自衛隊が対処することになっている。米軍が対応することにはなっていない。
 オバマ氏は会見で武力行使するかどうか明言を避けている。首相に平和的解決の重要性を強調して自制を促したことこそ重要だ。

破綻する現実主義

 安倍首相は集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈の変更についてオバマ氏から支持を取り付けたと記者会見で表明した。
 首相はこれまで現憲法は米国に押し付けられたと主張してきたはずだ。憲法解釈変更について、米国の「お墨付き」をもらい、慎重派の説得材料にするのは自己矛盾だし、対米従属に他ならない。
 憲法は統治者を縛る規範である。閣議決定だけで規範を変えることは許されない。阪田雅裕・元内閣法制局長官が指摘するように「統治者が自らに厳しく解釈を改めるのは良いが、緩く解釈を変えるのは立憲主義を無視する暴挙」でしかない。
 首相に辺野古移設の「お墨付き」を与えたのは、仲井真弘多知事の埋め立て承認だ。知事の承認の罪深さを物語る。仲井真氏は「現実的な方策」と説明するが、沖縄の戦後史を見ると、現実主義路線は必ず破綻する。
 例えば比嘉秀平主席の「米国に誠心誠意協力する」現実主義路線は、米軍用地の新規接収と地代の一括払いを認めるプライス勧告によって崩れ去った。1968年の主席公選で、早期返還を訴える屋良朝苗氏を批判し、まず日本との「一体化」路線が現実的と訴えた自民党総裁西銘順治氏は敗れた。
 18年間も動かない辺野古移設計画は現実離れしている。県外移設こそ現実的だと理解すべきだ。