海自いじめ訴訟 組織的隠ぺい体質が問題だ


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 いじめを苦に自殺した海上自衛隊護衛艦乗組員の遺族が国などに損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁が賠償を一審判決の440万円から7300万円余に大幅に増額した。「自殺の予測は不可能」とした一審を覆して「予測可能で回避できた」との判断に転じたためだ。

 今回の判決に大きな影響を及ぼしたのは、途中までこの訴訟を担当していた3等海佐が海自による組織的な文書隠ぺいの事実などを陳述書や法廷で明らかにしたことだ。内部告発がなければ、海自が負うべき責任の多くが闇に葬られ、遺族が泣き寝入りするところだった。
 3等海佐が告発に踏み切ったのは「自衛隊は国民にうそをついてはいけない」との信念からだ。これに対し提訴から8年にわたる国・海自側の姿勢は、うそにうそを重ね不誠実極まりないものだった。
 陳述書によると、自殺を受けて実施された護衛艦の乗組員190人のアンケートについて、3等海佐は提訴直後に情報公開部門の担当者から「(遺族から公開を求められた)乗員のアンケートは存在するが、破棄したことになっている」と告げられた。海自側は遺族の情報公開請求から約7年間も「破棄した」との虚偽説明を繰り返しており、言語道断だ。
 また訴訟代理人だった海自の法務係長は2012年1~2月、アンケートの原本が横須賀地方総監部に保管されている事実を把握していた。しかし内部告発を受けて内部調査が実施されるまでの4カ月近くも海上幕僚監部に報告していなかった。組織的隠ぺい体質は目も当てられないひどさだ。
 この護衛艦の乗組員がいじめで自殺した後も、自ら死を選ぶ自衛隊員が後を絶たない。自衛隊が責任逃れの隠ぺい体質に支配され、自殺抑止対策に真剣に向き合ってこなかった証左ではないか。
 よりによって海自は昨年、内部告発した3等海佐を文書の複写を持ち出したとして懲戒処分の手続きを始めていた。これは内部告発者への不利益処分を禁じる公益通報者保護法に抵触する。判決後、処分しない方針を固めたようだが、内部告発者を「裏切り者」として報復する組織は病んでいる。特定秘密保護法が施行されれば、ますます組織に都合の悪い情報を秘密指定して隠すのではないか。自衛隊の隠ぺい体質は抜本的に正すべきだ。