韓国船事故対応 船舶運航に高いモラルを


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 高校生を含む300人以上が死亡・行方不明となっている韓国の旅客船セウォル号沈没事故が朴槿恵政権を揺るがしている。鄭烘原首相は政府対応に問題があったとして引責辞任する意向を示した。

 今回の事故では政府当局が救出者や不明者の数を何度も訂正し、乗客の救助も遅れるなど、政府のずさんな対応に国民の批判が相次いでいる。いずれけじめはつけざるを得ないだろうが、捜索が続く中での辞任は無責任である。大統領は首相の辞任を留保しているが当然だ。行方不明者の家族は悲痛な思いで捜索を見守っている。政権は行方不明者の捜索に万全を尽くし、事故原因の究明を急ぐべきだ。
 これまでの調べによると、セウォル号は針路変更時に急旋回が起き、貨物が片方に寄ったことで船が大きく傾いて浸水し、沈没に至ったようだ。増築で重心を上げたことや安全基準の3倍の重さに上る貨物の過積載など、複数の要因が大惨事を招いた可能性が高い。
 一方、乗客の救出・保護に全力を尽くすべき乗員や事故防止に細心の注意を払うべき関係機関の対応でも問題が浮かび上がっている。
 韓国の検察などの合同捜査本部は26日までに遺棄致死と水難救護法違反の疑いで、船長(68)をはじめ操船担当の乗員計15人全員逮捕した。乗員は乗客を置き去りにして逃げていた。船に近づいた海洋警察職員が、船内に入って乗客の脱出を誘導しなかったことなども映像で確認されているようだ。
 周辺海域の船舶の航跡を監視する地元の海上交通管制センターも16日の事故発生時に異常を見逃したとして捜査対象となっている。
 鄭首相は会見で「事故前の予防から事故後の初動対応、収拾過程まで多くの問題に適時に対処できなかった」と謝罪した。安全対策も事故後の危機管理も機能していなかったのだ。がく然とする。
 今回の事故は、明らかにずさんな人為的ミスが重なった人災だ。
 事故は、沖縄にとっても人ごとではない。県内の船舶を運航する船会社や市町村は安全管理基準を定め、定期的に避難・救助訓練を行っているだろうが、抜かりはないか再点検してほしい。安全を担う乗員の教育も徹底してほしい。
 利益追求を優先して安全対策をおろそかにしないよう、全ての船舶経営者や運航責任者に高いモラルの確立を求めたい。